VIEW21 2001.04  Power for the Future
 生徒と一緒に考えたい「生きる力」

第46回青少年読書感想文全国コンクール
内閣総理大臣賞受賞

高見 優

石川県立金沢桜丘高校 '01年3月卒業生

 高校生活最後の読書感想文を『片目のオオカミ』(ダニエル・ペナック作)で書こうと思ったのは、動物が大好きなのできっと書きやすいと思ったのが大きな理由です。ところが、実際に書き始めてみると今までで一番時間がかかった「作品」になりました。高校3年の夏は、この感想文を書くために費やしたと言っても過言ではないと思います。
 『片目のオオカミ』は平易で短い文章なので、読んでいる時は決して難解だとは感じません。しかし、いざ感想文にまとめようとすると難しくて本当に参りました。書き上げたものを読み直す度に納得できなくて、何度も書き直しました。「読書感想文」では高校2年生の時にもあるコンクールで受賞していましたから、自分なりに多少の自信はあったのですが、改めて、「想い」を正確に人に伝えることの難しさを感じました。何十回も読み直していくうちに、自分の心にわき上がってきたものが少しずつはっきりしてきました。それは「真の意思疎通とは、互いに向き合って、目と目を見合わせて話すというのが本来の姿なのだ」ということです。僕は街へ出て知らない店を発見したり、道行く人を観察したりするのが好きなのですが、多くの人がどこであろうとひっきりなしに携帯電話をかけたり、電子メールをしていることに違和感を覚えます。僕も普段会えない他校の友達と電子メールを交換しますが、実際会って話をするほうが何倍も楽しいです。最近、ネットでの出会いが殺人事件に発展してしまった事件がありましたが、便利さの中で何かが歪んでいるという思いを強く持ちます。
 実を言うと、3年生は自由参加ということもあり、途中で何度も書くのを止めてしまおうかという考えが頭を横切りました。でも、一度決めたことを途中で投げ出したら絶対に後悔すると思ったんです。半分、意地ですね(笑)。夏休みの終わり近くになって、ようやく自分なりに納得できる「作品」が完成した時は、充実感がありました。賞を意識していなかったといえばウソになります。「出すからには賞を目指したい」と思っていたので、受賞は素直に嬉しいです。でも、仮にどんな結果になっても、高校最後の夏休みのこの挑戦を悔やむことはなかったと思います。金沢桜丘高校では生徒の読書感想文を先生方が丁寧に読み、「文章の巧拙ではなく、読書体験を通して本人が大きく成長したことが感じられる」作品を全国コンクールに推薦してくれます。ですから、今回の経験を通して、自分自身が少しは成長できたのかなと考えると嬉しいですね。
 「文章を書くのは好きですか」と聞かれることがあります。確かに本を読むのは好きですが、物書き志望というわけでもないし、現代文はともかく古文は苦手で、国語の成績もあまり自慢はできません。ただ、両親の影響は大きいですね。子供の頃から家の中にはいつも自然に本がありました。試験問題で出ていた文章に興味を持って、その出典を当たって読むこともありました。


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