VIEW21 2001.06  新課程への助走
 週5日制への対応状況

事例(5) 品川女子学院(中等部・高等部)

導入後の変化を学力、校風の面から考えて週6日制を継続

 週5日制を既に導入した高校がある一方で、「週6日制を堅持する」と表明した私立校もある。
 東京都にある品川女子学院は、'01年度入学案内で'02年度以降も週6日制を堅持することを明記している。教務主任の畑尾直喜先生は、週5日制では同校の教育理念「自ら考え、自らを表現し、自らを律する」を達成することが困難と判断したからという。
 「本校ではクラブ活動、生徒会活動など、生徒が主体となって取り組む活動が盛んです。例えば、体育祭や合唱大会などの学校行事は、生徒が自主的に企画し、休み時間や放課後に全員で協力し合い、学校全体で盛り上がっています。それらの活動は、同級生や先輩、後輩と交流を深めることを通して社会性などを身に付け、他者との関係を築くことで自分自身を発見する、大切な教育場面となっています」
 一方で、「ゆとりを持ちながらも、必要な学力は伸ばしてほしい」という大学進学実績への保護者からの期待があることを同校では認識している。
 この二つの目標を両立させるためにはどうすればよいのか、2年ほど前から教務課を中心として、いろいろな方向性を模索してきた。例えば、授業時間を変更して終業時間が遅くなった場合、生徒の帰宅時間を考慮すると、部活動を行う上で、弊害が起きるのではないか、現状の3期制から2期制に変更した場合、どんなメリット・デメリットがあるのか、などが繰り返し検討された。

教師と生徒の心の余裕を大事にしたい

 「最も懸念したのは、週5日制だけれども教科指導内容は今までと同じレベルでやりましょう、となったときに、現在の土曜日分の授業内容を平日の授業の枠内に無理やり押し込んでしまうことになるのではないかということでした。生徒の理解のスピードは一人ひとり違います。非常に理解の早い生徒もいれば、立ち止まったり、振り返ったりしながら、一歩一歩階段を登る生徒もいます。教師にはそれを温かく見守っていく姿勢も必要だと思います。
 万が一、教師が授業を進めることばかりを考えるようになり、生徒が繰り返し質問したり、悩んだりすることを好ましく思わないようになったとしたら、それは大変な問題です。本校が長年に渡り育ててきた、校風や良き伝統が失われる危険性もあるのです」
 週5日制を実施する意義は十分理解しながらも、品川女子学院は学力のみならず、校風までも考慮し、週6日制を堅持すると決定した。
 「中学、高校時代は生徒の変化の一番激しい時期です。一番伸びる時期だからこそ、学校は生徒の人間性を育てる場でなくてはなりません」
 同校では、当面の間この方針を変えないという。

 地方部と都市部、公立と私立という違いこそあるが、週5日制の検討に際して、いずれの高校も自校の目指す将来像と現実の課題との間で揺れ動いたことは間違いない。特に、B高校の事例に示されるような人事異動に伴う教師間のコンセンサスの破綻や、未だ実施していないカリキュラムに対する不安感は深刻な問題だろう。
 しかし、C教諭は問題点を挙げた後、こう付け加えた。「新しいカリキュラムは、現状で考え得る最良のものを集めたいわば『仮説』です。仮説に至るまでに教師全員が分かち合った痛みを考えれば、『そこまでしてこのカリキュラムをつくったのだから、とにかくやるのだ』という信念を持って実行すべきなのです」
 5校に共通していたのは、行き詰まったときは常にSIという原点に立ち戻り、カリキュラムを通じて生徒に何を伝えるかを真摯に考える姿勢であった。この姿勢を貫いてこそ、生徒のみならず保護者、地域をも巻き込んだ、学校のさらなる活性化が実現するはずである。


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