その結果、協力が得られたのは12大学・短大23学部。本当に大学の協力を得られるだろうかという不安は杞憂に終わったわけだ。
11月、「桐蔭総合大学」の実施が見込めるようになった段階で、同校では桐蔭総合大学準備委員会を発足させた。それまでは進路指導部が各大学との交渉などに当たってきたが、新たに「桐蔭総合大学」に参加する1、2年の学年団からもスタッフが加わった。そして、当日のスケジュールや教室の配分、生徒の希望調査の方法などが検討された。
大学の先生方との連絡には、主にEメールが利用された。プロジェクターやOHPを使いたいという教員が多く、自校の備品で賄いきれない分は、他の施設から調達した。
次の課題は、
生徒たちの気持ちをいかに「桐蔭総合大学」へと向けさせるかということだった。「生徒が本当に喜んでくれるだろうか」、実施にむけて、それぞれの先生が最も気を配ったのはこの点だったという。
1月下旬に、講座名と講師名が載った「講義教室一覧」を配り、生徒への受講希望調査を行うとき、2年生の担任だった図佐紅実先生は生徒たちにこう語りかけた。
「1日でこれだけの先生が桐蔭高校に一挙に集まるということは、日本の頭脳の一部が結集するようなもの。それを活かせるかどうかは、あなたたち次第です」
生徒の反応は積極的だった。1年生の担任だった清水昌樹先生のところには、何人もの生徒が講座選択の相談にやってきた。
「ほとんどの生徒が自分の興味に沿った選択ができたと思います。希望にぴったり合う講座がない生徒には、できるだけ近接する分野を選ぶようアドバイスしました。やはり多くの講座を用意したのが良かったですね」
生徒には第1から第3希望まで申請させたが、第2希望に回された生徒の中には「自分はどうしても第1希望の講義を受けたいんです」と申し出てくる者もいた。もちろん生徒の意欲を尊重した。また中には「受けたい授業が多すぎて絞れない」と悩む生徒もいた。
普段とは全く違う講義が受けられることに、教師の思惑以上に関心を示してきた生徒たち。既にこの時点で「桐蔭総合大学」は成功を約束されていたと言ってもよいだろう。
また前日には、嶋田博文先生が作成した進路だよりを配り、「当日必要なものは、筆記用具と知的好奇心。これだけです」など、生徒が親しみやすい言葉で「桐蔭総合大学」への意識を高めていった。
そして当日は、来校した講師の方々を入り口から控え室まで生徒に誘導させた。それも生徒に「桐蔭総合大学」を自分たちの行事と意識させるための工夫の一つだった。生徒の「桐蔭総合大学」への意識を高める工夫は、最後の最後まで行われた。
和坂先生は今回の成果を踏まえて、これからの展望を次のように語る。
「『桐蔭総合大学』によって生徒に芽生えた進路や大学への関心を、次へと発展させていくことが肝心ですね。そのためには将来をより具体的にイメージできるような取り組みがポイントになると思います」
既に同校では、'89年度より大阪大や京都大の施設を見学する桐蔭高校単独でのオープンキャンパス・バスツアーを実施している。昨年は約80人の生徒が京都大を訪れた。桐蔭高校では今、生徒の未来への夢を育むための新たな仕掛けが用意されつつある。
体験型の講義もいくつかあった。和歌山大教育学部矢萩喜孝教授の講義「書道に親しむ」では、説明を交えながら実演した後、書いている一人ひとりに助言を与えていった。
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