VIEW21 2001.06  指導変革の軌跡 和歌山県立桐蔭高校

桐蔭高校で
「桐蔭総合大学」が実施されたのは、今回が初めてのことである。そのねらいを、当時進路指導部長だった和坂浩年先生は次のように語る。
 「生徒の中には進路希望が定まらないまま高校生活を送り、気が付いたら受験が目の前に迫っているという子が少なくありません。そのような生徒たちが、大学生となって講義を受ける自分の姿を具体的に描くことができる取り組みを実施すれば、それが受験への意識を高める起爆剤に成りうるのではないだろうか。教師の間で交わされたそんな話からこのアイデアが浮かんできたのですが、企画段階では本当にできるのだろうかという不安はありましたね。何しろかなりの数の先生に来ていただくことになるわけですから」
 この企画に実現性はあるのか。そう思った和坂先生は、昨年の夏休みが終わった頃、和歌山大教育学部の武田勝昭教授のもとを訪ねた。武田教授は英語の指導研究などで桐蔭高校とのつながりがあり、まずは個人的な関係を頼りに感触をつかもうと考えたのだ。地元の和歌山大は、同校の生徒たちが最も数多く進学する大学である。その和歌山大から協力が得られないようでは、成功は難しい。
 「近畿圏のいくつかの大学から先生方を招いて、講義をお願いしたいと思っているのですが……」
 和坂先生の試案に対して武田教授は「それは面白いですね」と頷いた。大学が社会から閉じこもっている時代ではない。大学の他のスタッフも賛成してくれるはずだと武田教授は考え、教育学部長に話を持ちかけた。そして公式に桐蔭高校から和歌山大学長宛に依頼書を出してもらい、その結果、和歌山大からは13人の教員が「桐蔭総合大学」に参加することになった。
 「今回のような行事は、大学としても歓迎です。私たちも高校と大学の教育の接続をスムーズにするために、高校生が何を考えているか、大学の授業にどう反応してくれるかをつかみたいですからね」(武田教授)
 武田教授から予想以上の手ごたえを得た和坂先生は、次いで趣旨説明をするため和歌山県立医大、和歌山県立医大看護短大部を訪ねた。前例のない試みに当初大学側は戸惑ったようだが、意義を話すうちに賛同してくれた。
 「地元の大学は、まずキーとなる先生を見つけて、直接お会いして思いを伝えるところから始めました。県外の大学については、時間的余裕がなかったので関西地方の全国公立大の学部長宛に協力依頼書を出しました」


写真 清水昌樹 写真 図佐紅実 写真 中村法光
和歌山県立桐蔭高校教諭
清水昌樹
Shimizu Masaki
教職歴7年。同校に赴任して4年目。地歴・公民科。'00年度は総合人文科1学年担任を務めた。「『常識は疑ってかかれ。世界が変われば常識も変わる』と生徒には常々説いています」
和歌山県立桐蔭高校教諭
図佐紅実
Zusa Kumi
教職歴12年。同校に赴任して10年目。国語担当。'00年度は総合人文科2学年担任を務めた。「生徒が自分の頭で考え、自分の言葉で語るまで待つのが信条です」
和歌山県立桐蔭高校教諭
矢田寛子
Yata Hiroko
教職歴21年。同校に赴任して2年目。英語担当。'00年度は1学年の副担任を務めた。「教師は『It's you who can find meaning.』、生徒が意味を見出すガイド役だと思っています」

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