VIEW21 2001.06  指導変革の軌跡 和歌山県立桐蔭高校

 春休みを間近に控えた3月22日、桐蔭高校の教室で「微生物学―微生物と呼ばれる生き物について―」の授業が行われていた。講師は京都工芸繊維大繊維学部の松本継男教授。
 「地球上には300万から500万種の生物がいると言われています。このうち微生物の数はどれぐらいだと思いますか」
 松本教授はそんな質問をしながら、生物学のエッセンスをできるだけ分かりやすく生徒に伝えようとしていた。出席者の一人である2年生の小南真知子さんは、講義を聞きながら、「なんだかすごく贅沢なことだな」と感じていた。教員一人に対して生徒は8人。とびきりの小人数授業だ。本当にその講義テーマに関心のある生徒だけが受講しているので、教室全体が緊張感に満ちている。
 同じ時間、同学年の箕尾寛子さんは別の教室で、神戸大経営学部の水谷文俊教授の「経営システム講座│公共経済・公益事業論」を受けていた。水谷教授は「『モーニング娘。』のCDの価格はどのように決まるか」を例に、価格決定のプロセスを説明していた。箕尾さんは「面白いけど難しいな」と思った。需要曲線や供給曲線を使った理論を理解するには、数学の知識が不可欠になる。「大学で専門的な学問を学ぶためには、高校の勉強をしっかりしなくてはいけない」と、つくづく感じた。
 これは1、2年生合同で行われた「桐蔭総合大学」の一風景だ。この日、桐蔭高校では大学教員による講義が全部で35講座開かれた。近年、大学教員による出張講義を実施する高校は少しずつ増えつつある。だが一度に35人もの教員を招くのは、非常に珍しい。生徒たちは多彩な講義一覧の中から、自分の関心のあるテーマを選ぶことができる。また一講座平均20人の小人数授業なので、教員と生徒との距離がとても近い。「観察してみよう、身近な英語!」を受講した三宅涼子さんは「思っていたよりずっとアットホームな雰囲気で話が伺えて、大満足です」と語った。

「桐蔭総合大学」に
対する生徒たちの評価の高さは、数値にも表れている。受講後に生徒に対して行ったアンケート調査では、「講義を聴いての満足度」という項目で、「非常に満足した」「満足した」と答えた生徒が92.7%もいた。また「大学の授業に興味・関心がわきましたか」という質問では、「強くわいた」「わいた」が93.8%にも達した。
 同校の矢田寛子先生は「資料で調べるだけでは、生徒は漠然としか大学をイメージできません。生徒の大学への関心をもう一歩強めようと思えば、やっぱり生の授業を聞かせることが一番です」と言う。
 「桐蔭総合大学」が成功したのは、当初のねらい通り、将来の自分の姿を思い描ける場だったからだろう。この行事での出来事は、生徒たちの胸に確実に刻まれたようだ。

写真 大学教員の多くは、工夫して講義を展開していた
講師を務める大学教員の多くは、講義内容のレジュメや参考資料を配ったり、OHPやスライドを使うなど、生徒が少しでも理解しやすいように工夫して講義を展開していた。



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