VIEW21 2001.06  点から線の教育へ 中・高・大接続の深化形

AO入試の方向性はどのように変わっていくのか

 2つの事例からも分かるように、話題が先行しがちだった日本のAO入試も、着実に次の段階へと進み始めているようである。時間をかけて選考すれば、意欲のある優秀な学生が確保できる点で、大学側はAO入試のメリットを認めている。
 しかし「学科試験では見えない適性と意欲」の定義付けが今一つ不明確なこともあり、高校の現場では「従来の推薦入試との違いが分からない」「結局は学力重視に行き着くのではないか」といった意見が根強い。十分に納得して生徒を指導し、積極的にAO入試による受験を薦めるまでには至っていないのが現状である。大学が入試制度やカリキュラムを変え、それに対応できる生徒の育成を高校だけに委ねることには、もはや限界がある。これからは新しい制度への理解を高校に対して求めつつ、自ら高校生の育成にかかわっていく姿勢が大学側に求められていくだろう。
 方法論の違いはあるものの、前述の2つの事例に共通しているのは、大学側が積極的に高校生の「学び」に関与し、生徒の興味・関心を引き出しながら意欲や適性を高めようと試みている点である。

理想的な高大連携の一例として

 国立教育政策研究所の鳩貝太郎総括研究官に、事例から見た今後の高大連携の在り方、高校・大学それぞれの課題についてお話をうかがった。
 「従来の推薦入試が『高校時代の努力の結果』、言わば生徒の過去から現在までに重点を置いて合否を判断するのに対し、これらのAO入試は生徒の現在進行形の部分と未来の可能性を重視しています。つまり大学側が受験生に直接指導を行いつつ選考資料を作成し、合否を決定する性質のものです。生徒にとっては自分の志望が明確になっていく点で非常に励みになり、自分に対する自信も深めていけるはずです。九州大の事例は、そのメリットを十分に活かしたものと考えられます。
 一方、岡山理科大の事例は、理数科の特性をよく捉えていると思います。本来理数科は、数学・理科に対する適性や興味・関心が高い生徒が在籍する『専門学科』です。数学はもちろんのこと、普通科で履修するIB・IIとほぼ同内容の物・化・生・地から3科目以上を全員が履修し、課題研究を必ず行います。生徒の素養を高めるために、研究施設見学や海外研修を積極的に行う高校もあります。理科系の大学・学部は、理数科で学ぶ生徒の意欲や素養にもっと注目してもよいのではないでしょうか。
 高校生を大学の先生が実際に指導し、大学ならではの視点で生徒の弱点をフォローしつつ長所を伸ばす形で高校と協力し合えれば、理想的な高大連携になります。これは理科系に限ったことではなく、生徒も自分の進むべき道が開け、意欲的に学ぶことができます。高校は大学の実像や入試改革の意図が分からないままでは安心して生徒を送り出せませんから、大学側は自分たちの考えや取り組みを積極的に紹介し、AO入試に対する高校の先生の理解を得ていく必要があります。また、高校の先生も、最先端研究や、現在注目を浴びているテーマなどへの見聞を広めると共に、大学を訪問するなどの機会を設けて、生徒たちと研究者との交流などの体験的学習を行い、生徒の意欲や目的意識を高めることが、今後一層求められていくでしょう」


写真 鳩貝太郎
国立教育政策研究所
鳩貝太郎
Hatogai Taro
公立高校教諭を経て、現在教育課程研究センター基礎研究部総括研究官。日本学生科学賞の審査委員も長年務める。

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