VIEW21 2001.06  特集 授業と家庭学習の連結を考える

最後に
授業と家庭学習の連動のために何をすべきか

各科目の全体像を示す「学習構造図」で生徒との信頼関係を構築

 最近の若者の弱点は「他者」に対して無関心なことだと言われている。他者の立場に立って自分の行動を考えたりコントロールすることができないので、共感や信頼感が生まれにくい。教師が生徒の将来を考えて「かくあるべし」と指摘しても、それを「好意」と受け止めるどころか「強制」「抑圧」と感じる生徒も見られる。
 教師と生徒の信頼関係は基本的には教科指導を媒介にして成立する。学びの到達点や結果としての効果を示すには、教科・科目の全体像を俯瞰した「学習構造図」の準備が必要になる。
 各地の高校でシラバスがつくられ、中には学習領域ごとに「学びのポイント」を示すことによって「勉強のポイントが絞れない」生徒を「学び」に誘っている事例も見られる。
 3年間の学習展開プログラムにかかわる「学習構造図」は、教科担当者の合意で作成され、定期テストの出題領域やレベルの設定、予習(オリテン)・復習(リハーサル)プリントや添削(プログレス)課題などを作成するときや、個々の生徒の「つまずき」を修正するときの根拠となるものだ。
 共有化された学習構造図や生徒用シラバスに基づく授業展開と、それに連動した課題(宿題)を準備することによって家庭学習を動機付け、学ぶポイントを特定して授業に参加するといった相互関係が構築できれば、生徒を「遊び」から脱却させ、家庭学習を定着させることができるのであろう。オリテン・リハーサル・プログレスプリントは信頼関係を築くツールとして、この研究会に参加した高校において、様々な実践が試みられている。

「教育研究部」創設の動き

 学力低下が様々なメディアを通して発信されているが、ペーパーテストで計測される「知識量としての学力」よりも、教師が重視しているのは「学び」の意欲と行動とのギャップの拡大や、思考力・表現力などの「学力」が低下していることだ。これは生徒の置かれている生活環境の変化に伴う学習意識や、集中豪雨のように大量の知識をモジュール化して覚えさせる教育方法が根強く残っているなどの要因が考えられる。
 教科カリキュラムの編成は各教科の既得権を守ることではなく、思考力や表現力を育てるために、教育活動全体の中で、どんな授業展開を試みると生徒との信頼関係が構築できるのかという視点を、重く見ざるを得ない時代に入っているのではないだろうか。
 同じアドバイスをしても生徒の「受け止め方」に差異が発生するのは、人間的な信頼関係の有無によるところが大きい。いずれにせよ生徒たちは「勉強しなくてはと思っているが、自主的に学べない」という心理的葛藤の中で生きている。
 このような視点に立って教育計画の企画・立案に当たるものとして教育研究部を創設する動きが始まっている。広島県立尾道北高校では、シラバスの作成・テストの計画と実施、小論文学習の展開や授業研究を行う組織として機能しており、熊本県立熊本高校では、総合学習を軸にSIの構築をはじめとして長期的展望に立った学校教育のあり方を考えている。いずれも従来型の校務分掌にこだわらない推進組織として設立されていることが特徴だ。
 教育環境が大きく変貌する中で、時代に対応した新たな教育スタイルの研究が必要とされているようだ。


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