VIEW21 2001.09  IT Introduction 情報技術が学校をどう変えるのか

生徒の自律的学習をIT活用で促進

 このようにIT化が着々と進んでいる同校だが、コミュニケーションツールとしての活用状況はどうだろうか。
 「生徒が先生に普段なかなか言えないことをメールで相談するといったことも少なからずあるようです。本校には教育相談部という分掌がありますが、保健室などとも連動してメールでの相談受付と返信を早くから始めていました。お互いが面と向かって話をするのに比べて無理がなく、垣根は低くなっているのではないでしょうか」と奥村先生は話す。
 同様に海外に留学中の生徒の精神的なケアも、教師がメールを送る形で行うこともあるという。さらに現在では、大学生などのチャットに参加し進路相談をする生徒や、外部のメーリングリストに加わったり、大学教授にメールを送ったりする生徒もおり、コミュニケーションの幅はかなり広がりつつあるようだ。
 また、希望者だけに発行していたメールアドレスを、'01年度入学生からは原則として全員に発行した。「メールアドレスを持たせることは、個々の生徒を尊重することではないかと思うのです。発行によるデメリットを恐れるより、ネットワーク社会での一人ひとりの在り方を皆で考えることの方が大事だと思います」

TIFORSに見る「学び」の広がり

 さらに同校のネットワーク利用に関して特筆すべきなのは、TIFORS(The Internet Force Of Ryoun Students)という生徒の集団である。これは学校のカリキュラムに縛られず、インターネットを学習活動の中で積極的に活用しようという同好会的な存在で、様々なテーマに基づいた学習プロジェクトを推進している。例えば「旭川マルチメディア・マップ・プロジェクト」では、旭川地域のマルチメディア関連の企業や機関を、生徒が訪問取材し、成果をWeb上に公開する。取材先との交流を通じて実際の社会を知ると共に、自分たちが学ぶ理由を考え、学習に対する動機付けがなされるプロジェクトだ。
 このTIFORSが推進するプロジェクトは、生徒の学ぶ意欲を活かし、学校の枠組みを越えた自律的・日常的な学習環境を構築しようとする、通称『自律プロジェクト』に結びついていく。「校内の環境を整備し、教師や生徒だけがそのメリットを享受するだけでは意味がありません。インターネットの活用で外部との接触の機会が増え、情報の受発信が容易になったことを好機と捉え、地域に開かれた学校という観点から、地域とどう連携していくかを考えることも大切なのではないでしょうか」
 最後に奥村先生は、コミュニケーションツールとしてのIT活用の今後について、こう締めくくった。「インターネットの普及によって、コミュニケーションの方法が大きく変わりました。これはコミュニケーションとは何か、世の中の仕組みとは何かを考える良い機会と捉えるべきだと思うのです。これまで見えていなかったことを直視してものを考えたり、お互いが気持ちよく生きるためにはどうすればいいか議論したりするためのツールとしてITを捉えることも必要でしょう」


写真 田村壮児
北海道旭川凌雲高校教諭
奥村 稔
Okumura Minoru
教職歴22年。同校に赴任して18年目。数学担当。「学ぶ意義、生きる意味は人との出会いから知る。ITを手段に、そのためのコミュニティーを生徒と一緒につくりたい」

北海道旭川凌雲高校
1983年創立。普通科の共学校で、全校生徒数は880名。'01年度入試では北海道大、旭川医大をはじめ国公立大に合計43名合格。道内中心に約8割の生徒が進学。
住所/北海道旭川市永山町3丁目電話/0166(47 )6006


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