VIEW21 2001.09  Power for the Future
 生徒と一緒に考えたい「生きる力」

スポーツNGO
ハート・オブ・ゴールド本部事務局

スポーツを通じて、途上国の人々と希望と勇気を共有することを目的に活動
http://www.hofg.org/

岡田千あき

大阪外国語大外国語学部国際文化学科 開発・環境講座助手

 大学を卒業した春、青年海外協力隊員としてアフリカ南部内陸にあるジンバブエ共和国に赴きました。その時から2年間に渡る私のタウンゼント・ガールズ・ハイスクールでの体育教師としての生活が始まったのです。派遣先を聞かされて、初めて世界地図で場所を確認したくらいですから、ジンバブエは私にとって文字通り未知の国でした。考えてみると、それまで私は人生を「何となく」過ごしてきました。高校受験では「英語が好きだから英語科に」、大学進学では「スポーツが好きだからスポーツ科に」といった具合で、興味はあっても、それは強い意志や情熱に裏打ちされたものではありませんでした。実を言えば、青年海外協力隊に応募したのも、語学力や教員免許といった自分の特技や資格が活かせるかなと「何となく」思ったからでした。しかし、ジンバブエで私はそれまでの自分を見つめ直し、新たな「自分の生き方」を見つけ出すことになったのです。
 ジンバブエでの暮らしの中で「死」はひどく身近なものでした。私のいた2年間だけでも5名の生徒が栄養不足とか、耳の病気とか、日本では信じられないようなことが原因で亡くなりました。また、エイズ禍も深刻で、多くの生徒がエイズで肉親を失っていました。ある日、教室で鼻血を出した生徒がいたので、とっさに素手で止血をしたところ、同僚の教師から厳しい口調で「素手で血を触るなんて、クレイジーだ」と言われました。そのような場合は、必ずビニールの手袋を付けなくてはならないのです。目の前で教え子が出血した時に、教師が最初に考えなければならないのは、生徒が持っているかも知れない感染病からいかに自分の身を守るかなのです。
 人種差別の問題にも直面しました。私は水泳部の顧問をしていたのですが、白人の生徒は決して黒人の生徒と並んで泳いだりはしません。意地悪でしているのではなく、普段は仲良く手をつないでいる友達同士であっても、プールの中で近付くことは「NO!」なのです。差別は私自身も経験しました。水泳大会に出場する選手を決めた時のことです。実力が拮抗する二人の生徒から、悩んだ末に一人を選んだのですが、問題は選ばれた生徒が黒人で、補欠に回った生徒が白人だったことでした。慣れない土地で苦労をしている日本人の私に、折に触れて優しく声を掛けてくれていたその子の保護者は、それまで見せたことのない表情で吐き捨てるようにこう言いました。「そもそもイエローがホワイトに泳ぎを教えられるわけがない!」。
 本人にはどうすることもできないことで、他人を蔑み、虐げることが、どれほど人を傷つけるのかということを、私はその時初めて知りました。悔しくて、悲しくて涙が止まらない私に黒人の校長先生は「これが現実です。こんなことでいちいち落ち込んでいたら、ここではやっていけませんよ」と諭すように話してくださいました。


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