VIEW21 2001.09  指導変革の軌跡 和歌山県立那賀高校

 「先生、今度は花瓶敷きをアレンジして、コースターをつくっていいですか?」
 ある教室では、生徒が畳の材料で花瓶敷きや壁飾りをつくっていたが、一つ製作し終えると、それぞれに工夫を凝らし思い思いの作品を製作し始める。教室の外に目を転じると、校庭ではソフトボールの試合が始まっている。食物教室からはパンやお菓子の美味しそうなにおいが漂い、そんな校内の様子を、ノートとペンを持って取材して回る生徒もいる。
 これらは7月11、12日の2日間、那賀高校で行われた、夏休み前のメイン行事、小人数講座「トライ&エンジョイ」の様子だ。
 「トライ&エンジョイ」とは、保護者や地域の人の協力の下、生徒を対象に普段の授業や教科活動では行うことのできない、実体験を中心とした多種多様な小人数の講座を開くというものだ。一講座は20名程度。講座の数は62。'00年度から始まり、今年で2回目となる。校内だけでなく、校外で行われたものも多数あり、生徒は、自分の興味や関心のある講座に参加する。
 「トライ&エンジョイ」を始めた動機を、實宝正芳教頭はこう語る。
 「今の子どもたちには、多種多様な生活体験が足りないと思うのです。例えば、スポーツでは、野球やサッカーは小さな頃から親しんでいても、他の競技は経験したことがない生徒が多い。情報は溢れているのに体験が足りない。そこで、体験を中心にした何かができないかと考えたのです」
 その言葉通り、今年開設された講座を見ると、校内では空手、手話、校外では着付け、ガラス工芸、テーブルマナーなど、生徒にとって初めての体験となる講座が用意された。
 中西理夫先生は、「トライ&エンジョイ」を、生徒の「自分発見の場」にしてほしいと話す。
 「高校生の毎日は、同じことの繰り返しです。新しいことをしたいと思っても、費用などの制約があるため、結局はやらずに終わってしまう。だから、普段できないことをやらせてあげられる機会をつくりたかったんです。新たな経験を通して、今までとは違う自分に気付いてもらいたいと思っています」
 中西先生は、昨年「パステルと水彩」 の講座を担当。作品に対する考え方や取り組み方など、日常の授業では気付かなかった生徒の意外な一面が見えてくることを実感した。
 また、2年続いて「校外クリーンアップ作戦」を担当した西岡正博先生も、同様であったという。
 「昨年は、第一希望の生徒は全くいなかったのに、今年は最初から希望した生徒が数人いました。暑い中で大変な作業なのに、昨年から引き続き参加した者もいて、頼もしさを感じると同時に、問題意識を持っている生徒が多いことに気付かされました」
 教師にとっても、「トライ&エンジョイ」は普段は発見しにくい生徒の個性を見つける、「生徒発見の場」となっている。

「トライ&エンジョイ」は、
「新しい那賀高校の教育を考える」ための組織「2000年委員会」が発案した取り組みだ。委員会での討議を基に、那賀高校ではこの3年間に学校行事を精選・整理し、生徒に最大限の効果を与えるため、様々な改革が実行された。2学期制の導入もその一つだ。そして今年は、生徒一人ひとりの興味・関心を喚起し、自己の発見や生き方について考察する機会を提供するため、「トライ&エンジョイ」と進路行事を同時期に行うことにしたという。


<前ページへ  次ページへ>

このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。

© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.