VIEW21 2001.09  指導変革の軌跡 和歌山県立那賀高校

 その「トライ&エンジョイ」の運営は、「2000年委員会」を引き継いだ「ビジョン21委員会」が中心となった。基本的には、一人の教師が一つの講座を受け持ち、その内容は生徒の興味・関心を踏まえつつ、自分の趣味や得意分野から考案。経費や目的、進行方法などを具体化して企画書にまとめ、「ビジョン21委員会」に提出した。委員長の湯川拓哉先生は、準備の様子についてこう説明する。
 「伝統と先進性の調和が、那賀高校のモットーです。那賀高校独自のものをつくろうと、講師への依頼や開催場所の下調べなど、先生方は皆、準備段階からとても協力的でした」
 「『今年は何をしようか』と、自分自身も楽しんで考えました。教師にとってもまさしくトライ&エンジョイなのです。教師が楽しめなければ生徒も楽しめません」と、樋口温勇先生も話す。
 講座を通じて、生徒たちは「あの先生にこんな趣味があったのか」と意外な一面を知る。生徒にとっては「先生発見の場」なのだ。
 講座は1日目に教室でルールや歴史など、講座にまつわる知識を蓄え、2日目が実践だ。
 西節子先生が担当した「葛で花籠をつくる」の講座では、前日に葛がどんな植物かを学び、山に葛を取りに出かけた。まむしが出るような山中に分け入り、すべって尻餅をつきながらも、生き生きと作業をする生徒たちからは「面白い体験だった」という声が聞かれた。そして、次の日は、思い通りに曲がらない葛を相手に悪戦苦闘しながら花籠の形をつくっていった。
 「山に入るので、万が一の毒蛇の被害なども予想して、消防署に連絡して待機をお願いしました。材料の調達から経験させて、生徒にやり終えた時の充実感を味わってほしかったんです」(西先生)
 「トライ&エンジョイ」の意義を、西克子教頭も次のように語る。
 「実際に体験すると、うまくいかないことが出てきます。その課題をどう乗り越えればよいかを考え、そうして苦労して達成した充実感を味わう。自分で最後までやったという自信は、将来きっと活きてくると思います」
 昨年は、保育園での本の読み聞かせを体験した中から、保母さんになりたいという生徒も出てきたという。生徒は各々の体験から、それぞれ新たな自分を発見しているようだ。
 また、同校では、育友会(PTA)が、生徒のことを考えて、積極的に取り組んでくれる環境にあることも、この企画がスムーズに運営された大きな要因の一つだ。育友会は、生徒のためなら協力は惜しまないという態勢を取り、危険が予想される講座では、率先して同行を申し出てくれた。カヌー教室の行われた川には4名、バス釣りをする池には2名の保護者が見守っていたが、皆「手を挙げて参加しました」という人ばかりだ。地域の人が講師として協力した講座も多く、また学校外での講座も半数以上に上り、校外で地域の人に触れる機会もある。那賀高校の「トライ&エンジョイ」は、徐々に保護者や地域の人に浸透していると言えるだろう。

「探求」の実施方法、まだある参考にしたい取り組み

写真 中西理夫 写真 西 節子 写真 中村法光
和歌山県立那賀高校教諭
中西理夫
Nakanishi Masao
教職歴12年。国際理解教育部長。同校に赴任して8年目。英語担当。ビジョン21委員会委員。「すぐに指示を与えてしまわずに、生徒に自分で考えさせることを心がけています」
和歌山県立那賀高校教諭
西 節子
Nishi Setsuko
教職歴38年。第3学年主任。同校に赴任して4年目。数学担当。ビジョン21委員会委員。「生徒の興味や能力を引き出すのが教師。明るく楽しく真剣に接し、生きる力を与えたい」
和歌山県立那賀高校教諭
西岡正博
Nishioka Masahiro
教職歴20年。生徒指導部長。同校に赴任して8年目。英語担当。ビジョン21委員会委員。「今は分からなくても、いつかは分かってくれるという気持ちで生徒に接しています」

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