堀之内 小学校で耳にしていたことを中学校でさらに深く学び、中学校で学んだことを高校でさらに深く理解する。つまり、大切な学習内容は学校段階に応じて、段階的に繰り返し学ぶことで理解が深まり、体系化されていきます。しかし、新指導要領では、学習の機会を一度逃すとその部分の知識が抜けたままで学校教育を終えてしまう懸念があります。理科で言うと、「イオン」という言葉は中学校の教科書にも指導要領にも出てこなくなります。生徒は「イオン」の概念を高校で初めて学び、その場で理解していくことが求められます。現実問題として、これは教師にとっても、生徒にとっても、かなり大変なことです。
深町 数学でも不等式を中学では全く扱わなくなります。発展的な内容は不等式でずいぶん扱えましたから、これ一つとっても中学校での数学の指導はかなり変わります。しかし、それ以上に高校の方でこれらの変化をきちんと認識し、中学時代に必修でどこまで勉強しているかを確認しないと現場はかなり混乱するでしょうね。
堀之内 一部の生徒に確認して、偶然その生徒が選択授業で習っていたために「それやりました」と先生に言うこともあります。先生がそれを真に受けて授業を進めてしまったら、分からない生徒がたくさん出てしまうことも考えられますね。
新課程のねらいを汲み取り自発的な「学び」へ生徒を導く
――授業時間数が減る中、教えるのが難しい内容が、高校に移行・統合されます。高校側に求められる視点とはどのようなものでしょうか。
堀之内 大学入試の動向により、高校での学習が知識偏重になるのではないかと心配しています。理科的・科学的な考え方や手法というのは必ずありますから、生徒が実験や観察をし、それを基に考察して結論を導いていく、そういう過程を重視してほしいと思います。新指導要領では計算が必要なものや、抽象的な思考や説明を要する内容はほとんど高校へ移りました。そのため中学校では計算や抽象的な思考・説明に対する訓練ができていません。週5日制の中でその不足に対応するのは大変だとは思いますが、移行させたねらいをしっかりと汲み取ってほしいです。
深田 中学校では体系的な文法の理解ができていないはずなので、高校では文法用語を基本から丁寧に教えていただきたいですね。「普段自分たちが使っている英語は、文法を使えばこんなにすっきりと整理できるのだ」と生徒に理解させることが、高校での英語学習のスタートだと思っています。また、中学校では読解力や英作文、文法だけが英語の学力ではないという認識がかなり以前からあります。新課程ではさらにそれが進みますので、リスニングも話すことも立派な英語力であると、音声重視の学力観・評価観に高校でも変えていく必要があると思います。
クラス編成に関しても、英語学習にチームティーチングを導入するなら、習熟度別にクラス数を増やすなどの努力が必要だと思います。クラスも1年間固定というのではなく、「伸びてきたから上のクラスに」、「基礎クラスでもう一度」といった生徒の希望に柔軟に対応できるといいですね。
深町 「教師が主体となって、受身の生徒を引っ張っていくしかない」という感覚を教師自身が持っているうちは、生徒は自ら学ぼうとはしません。いかに生徒の自発的な学びを支援するかということを考え、学校教育を改革するチャンスだと捉えないと、新しい指導要領の可能性が語られず、否定的な思考しか出てこないと思いますね。
藤森 すべての教科に言えるのですが、目的意識を持たせることが非常に重要だと思います。昔と違って、子供たちが中学校を卒業する段階で、「こういう人間になりたい」「こういう職業に就きたい」という夢を語れないのは、そういうことを意識して日常生活を送っていないせいでしょう。不況が続く厳しい社会環境ですが、子どものときから自分の将来像を意識するように指導していけば、「学び」への姿勢はずいぶんと違ってくるように思います。
――ありがとうございました。
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ベネッセ教育研究所顧問・理科
堀之内亨
Horinouchi Toru
実験・観察を基に考察をして結論を導く。そんな理科的・科学的な手法の過程を生徒に身に付けさせてほしいです。
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ベネッセ教育研究所顧問・英語
深田洋子
Fukada Hiroko
読み書きと文法だけが英語力ではありません。「聴く力」と「話す力」をきちんと評価し、従来の学力観や評価観を変える機会にしてほしいです。
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