VIEW21 2001.12  点から線の教育へ 中・高・大接続の深化形

 また、大学の講義に高校生を受け入れることは、教員の授業方法の改善にも効果があるようだ。
 「近年、学生に対して明らかに以前の授業手法が通用しなくなってきていると感じます。従来はある原理を説明して、それをどう現実に適用させるかといった展開で講義をしてきたのですが、最近の学生は抽象的な思考が苦手になっています。そこで具体的な事象の説明から入らなくてはいけなくなった。学生は急速に変化しているんですね。新しい授業手法を開発したときには、既にそれが古くなっている。それならば未来の大学生である高校生の実像を、今の段階からつかんでおいた方がいいと考えたのです」(大野教授)
 大阪大大学院理学研究科の倉光成紀教授は「基礎セミナー」の一つ「蛋白質や遺伝子を楽しもう」を担当し、2人の高校生を迎え入れた。ちなみに「基礎セミナー」はどの科目も10~20人程度の小人数授業となっており、教授と学生との距離はとても近い。
 「生徒たちは私の話を、概ねしっかりと理解してくれました。しかし、うっかり説明を飛ばしてしまうと、通じなくなることがあったんですね。彼らがこれまで何を学んでいて、どういう経路で理解に至るかを、教員側が把握しておくことが指導する上でのポイントになるんです。こういった意識を教員が持つことは、高校生だけでなく大学生に教えるときにも非常に重要です」
 つまり大学の教員が高校生を相手に指導することは、通常の講義で大学生を教える際にも貴重なノウハウとして蓄積されるというわけだ。
 公開講座のもう一つのねらいは、授業の活性化だ。埼玉大の岩本教授は、浦和高校から「高校生の講義受講」の話が持ち込まれたときに、その点に一番の魅力を感じたという。
 「最近の学生は、講義中もみんな後ろの席に座って、受け身で話を聞いています。そんな大学生の集団の中に意欲のある高校生が飛び込んできて積極的な姿勢を見せてくれれば、大学生にとっても刺激になります」
 岩本教授は公開講座初年度のガイダンスで、浦和高校の生徒たちに「教室では一番前に座って、先生に顔と名前を覚えてもらいなさい」と話した。すると生徒たちは例外なく最前列に席を取ったという。講義修了後に担当教員に行ったアンケートでは「大学生も高校生に負けじと質問するようになった」などの意見も寄せられた。
 大学を活性化させた生徒たちは、高校に戻ってからも活躍する。今年度埼玉大で学んだ浦和高校の生徒たちは、自校の文化祭の「公開講義」で、学んだ内容を今度は自分が先生役となって、他の生徒や来校者に講義した。
 実際に大学で講義を受講するのは一部の生徒だけであっても、自ら意欲的に学ぶ生徒がクラスに増えていくことで、周囲の生徒も刺激を受ける。つまり、学校全体が活性化する可能性を持っている取り組みなのだ。

【公開講座の今後】
参加する生徒には学力と意欲が求められる

 高校と大学の双方に様々な効果が期待される「高校生による大学の講義受講」だが、これをうまく継続していくための課題も見えてきた。'01年度前期、大阪大の公開講座を受講した北野高校の生徒は32人だったが、高校側は大学の講義に対応できる学力があり、なおかつ学問に対する興味・関心の高い生徒のみを送り出してきたという。
 「今回、公開講座を担当した先生方の感想は概ね良好でしたが、この取り組みが拡大していったときに、参加する高校生の資質と姿勢が保たれるのか危惧もあります。参加する高校生にとっても、受け入れる大学にとっても、意義のある取り組みにしていかなければなりません」(大野教授)
 意欲の高い生徒にとっては、公開講座ほど知的好奇心を揺さぶられるものはないだろう。その意味で公開講座は、高校での授業を超えて、より発展的に学ぼうとするタイプの生徒に向いている。今後、高校が大学との連携を検討する際には、自校の生徒の様子を見ながら公開講座、出前講義、1日体験入学などを上手に使い分けることが求められる時代がやってくると言えそうだ。


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