VIEW21 2001.12  点から線の教育へ 中・高・大接続の深化形

 大阪大と北野高校も'01年度から「高校生が大学の正規の講義を受ける制度」を始めているが、実施に至る過程と形態はほぼ埼玉大と浦和高校のケースと同じだ。最初に申し出たのはこちらも高校側であった。やはり公開講座の形を採り、新入生向けの小人数講座である「基礎セミナー」(前期のみ)が開放され、計18科目に32人の生徒が参加した(表2)。授業時間帯は、高校生が通える5限(16時20分~17時50分)に設定された。
 埼玉大や大阪大のこうした実施形式は、これから公開講座が他大学で導入されるときの雛形になると考えられる。埼玉大は'01年度から、埼玉県内の浦和北高校、大宮高校、川口北高校の生徒の講義参加を受け入れているが、個別に各高校と交渉するのではなく、県教委を窓口として、そこから公開講座に参加する高校を推薦してもらう形式を採った。大阪大では'02年度以降は地区府立高等学校長会を窓口とする方針だ。また'01年度公開講座をスタートさせた横浜国立大は、横浜市内の各高校に「募集案内」を送付した。
 「公開講座と称する以上は、特定の高校だけではなく幅広く周知して、参加する生徒を募集した方がよいと判断したからです」(学務部教務課・川戸達也氏)
 今後は大学と各高校との個別の連携ではなく、教育委員会などを通したスタイルが一般化していく可能性もある。

表2 大阪大「高校生を対象とした公開講座」(抜粋)
    授業科目名   所属部局
臨床哲学セミナー 文学部
子どもの現在 人間科学部
マーケティング入門
“Introduction to Marketing”
経済学部
現代の宇宙像・地球像A 理学部
英文科学ニュース講読A 医学部
生命とくすり 薬学部
粒子とビームの世界 工学部
量子力学の不思議な世界
-磁石から超伝導へ-
基礎工学部
現代進化論と分子生物学のパラダイム 微生物病研究所

【公開講座 大学側のねらい】
高校生を教えることが授業方法の改善につながる

 では大学側は、公開講座を実施するメリットをどのように考えているのだろうか。埼玉大工学部の岩本一星教授は「講義を受けてもらうことによって本校の魅力を感じてもらい、優秀な学生に一人でも多く入学してほしいという思いは否定しません」と語る。だが、埼玉大をはじめ各大学は単なる自校のPR活動として、この取り組みを捉えているわけではない。その背景としては高校と同様に大学でも、教育面での高大接続を課題とする意識が高まっていることが挙げられる。大阪大学総長補佐で共通教育機構教務部長の大野健教授は次のように話す。
 「高校での科目選択が拡大することで、生徒たちが自分の好きな科目しか勉強しない傾向が進むのではないかと心配しています。大学ではどんな学問を専攻するにせよ、国語や数学、英語などの基礎学力が必要不可欠です。高校生を大学の講義の一端に触れさせることによって、好きな分野を究めたいなら、なおさら基礎がしっかりできていなくてはいけないことを伝えたいのです」
 大阪大大学院理学研究科の植田千秋助教授も同様の考えだ。植田助教授が所属する宇宙地球科学専攻では、数人の教員が共同で「基礎セミナー」の一つ「現代の宇宙像、地球像」を開講。2人の高校生が受講した。
 「教員が懸命に追い求めている研究テーマを、できるだけ簡単に説明するというのが、講座の趣旨です。研究をやっている現場の意気込みは伝わったはず。その中から学ぶ意欲を得てくれればと思っています」


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