中学校の新課程が高校の授業を大きく変える
週5日制による高校の環境変化だけを考えても、従来の教科指導に、新たな工夫が必要となる理由は十分のように思われる。しかし、それに加えて中学校の新課程による教科指導内容の変化は、高校の教科指導への影響が大きいようである。
中学校の新課程の影響
新課程では中学校における学習内容が、現行課程に比べて3割程度削減される。高校からは、「今よりも知識量の少ない生徒が入学してきたら、授業が成立するのだろうか」という悲鳴にも似た声が上がっている。確かに'02年度新課程で中学校の指導内容から削除される学習項目や、中学校から高校へ移行してくる学習項目を見ると、高校の不安も当然と思われる。しかし、「中学校での学習量が減ったので、高校の教科指導の負荷が増す」と嘆くよりも、「高校の指導に新しい工夫を加えることで、中学校の新しい教科指導の特徴を活かすことを検討すべき」という前向きな声も聞かれる。
例えば、英語では必修単語数が507語から100語に減少するため、新課程の中学生は必修単語だけでは簡単な英作文もできないという指摘もある。しかし、その100語のほとんどは基本的な動詞なのである。つまり、「覚える単語数は本当に必要なものに厳選したが、その厳選した単語については高い運用能力を身に付けさせる」というねらいが読み取れるのである。そこには新課程の基本的なスタンスである、「覚えるべき知識量を減らした分の時間で、『自ら考える力』を育成する」という教育理念が、極めて明確な形で示されている。確かに、知識量だけを比較したならば、'03年度新入生の知識量は現行課程の生徒に比べて少ない。しかし、その代わり、「考える力」の育成に時間を割いた指導を受けた'03年度新入生は、現行課程の生徒に比べて、発想力や表現力で優れている可能性がある。
新課程生のプラスの側面を伸ばし、教科学力の向上につなげていくためには、「どれだけ知識が減っているのか」という面だけではなく、「知識量を減らした分の時間で、何を学んできたのか」という面からも、学力を評価する視点が必要となる。
指導すべき内容の増加も教科指導を見直す好機に
中学校から高校への学習内容の移行は、「指導すべき項目が増えた」と捉えるだけではなく、教科指導の新しい工夫を考えるチャンスとして捉えることもできるのではないだろうか。
中学校と高校で指導が分断されないため、教科に興味・関心を起こさせるという部分を含めて、知識重視型の指導から、「考える力」重視の指導へのスムーズな転換を行うきっかけとなる可能性を秘めているとも考えられる。今回の改革によって、何が可能になったのかという視点を持ちつつ授業内容を再構築できれば、新課程は生徒を伸ばすチャンスにもなると思われる。
最後に、教科によっては科目の新設や再編が行われることもあり、そこでも授業内容の重複や順序に調整が必要となる。各教科の新課程の指導計画案は、場合によっては他教科とも連携しつつ、詳細計画をいつまでに検討し、決定していくのかといった、学校全体を見通した年間スケジュールが必要になると思われる。
次頁からは各教科でそれぞれどのような検討が必要になるのか、具体的に考えてみたい。
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