会議はブーイングの嵐 でもこのまま引き下がるわけにはいかない
99年7月、現場スタッフへの最終社内プレゼンテーションが行われました。ところが、この社内プレゼンテーションが大荒れになってしまったのです。リーダーである私自身の信頼が足りなかったのでしょうね。一度実績をつくってしまえば自分の土俵で勝負できるのでしょうが、前任店で成果を上げていても本部では無名の新参者。その私が思い切った改革案を提言したものですから、「オリジナルの売り場をつくるとか、渋谷初とか本当にできるのか」「有名ブランドも入っていないのに夢物語だ」と会議はブーイングの嵐になったのです。しかし、私には今まで培ってきた現場の感覚と、この何か月間かのマーケティング調査で、「絶対、このプロジェクトは成功する」という確信がありました。お客様のアンケート結果、コンサルタントとの分析結果などの資料を片手に何回も社内を説得して回ったり、出店が決まっている店の社長に会ってもらったりと必死でした。精神的にもかなり辛い時期だったのですが、徐々に社内にも私たちの考えを支持してくれる人が増え、ずいぶん支えられました。
このプロジェクトの最大の危機は、突然会社の経営判断でプロジェクトの大幅修正命令が下ったときでした。まさに寝耳に水、既に現場の改装プランも中盤に差し掛かっていました。様々な感情や判断が交錯する中で、一時は「上(経営陣)が決めた以上、組織の一員としては諦めるしか仕方がない」という気持ちにもなりました。しかし、出店の際になかなか承諾してもらえなかった店の社長も、最初は反対していた社内スタッフも、今は自分を信じてくれている。いくら組織の決定でも、黙って引き下がるわけにはいきませんでした。私は「もう一度、公平に判断をする場をつくってください」と経営陣に説明を聞いてもらえるように食い下がりました。社内には「今、思い切った改革を実行しなければ会社全体として手後れになる」という危機感がありましたから、多くのスタッフが私たちのプロジェクトを支持し、説得に協力をしてくれました。その結果、なんと一度は決定された修正命令をひっくり返すことができたのです。
リスクを恐れず挑戦すれば改革は必ず成功する
1年後の00年4月、東急百貨店東横店の地下食品売り場は、「東急フードショー」として新しく生まれ変わりました。新しいコンセプトの食品売り場はお客様の高い支持をいただき、1年目は対前年比で約150%の売上を生み出し、2年目も好調を維持しています。しかし、現状に満足してしまっては意味がありません。時代は変わり続け、お客様の求めるものも常に変化しています。
01年にも2回目の大改装を行いましたが、最初のときのように、改革に対しての否定的な声は聞かれませんでした。このプロジェクトの本当の成果は、我々が一丸となって考え抜き、リスクを恐れずに挑戦すれば、改革は必ず成功するという自信を持てたことではないかと思います。最初はゴールすらも描けなかったこのプロジェクトがこうして成功を得られたのは、やはり社内スタッフ、そして出店してくださった店の方々の協力があったからです。初めは受け入れられなくても、自分が自信を持ってつくった中身のあるプランと誠意があれば、必ず想いは相手に伝わります。「東急フードショー」は始まったばかりですが、この経験は私の人生のかけがえのない財産になっていくと思います。
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