VIEW21 2002.4  リーダー群像
 現状をどう捉え、どう行動したのか

スタッフの少なさをフットワークの軽さに変えた

 競合店にはないオリジナルな魅力のある地下食品売り場をつくる。口で言うのは簡単ですが、そのハードルは途方もなく高いものでした。しかし、考えようによっては、目指すものが現状と離れていれば離れているほど、思い切った改革に挑戦できるということです。私は渋谷の地下に「お客様の笑顔と店員の活気が溢れる売り場をつくろう」と考えるようになりました。
 百貨店の外に目を向けてみると、不景気にもかかわらず、お客様が行列をつくっているレストランやケーキショップなどがたくさんありました。特に渋谷を中継地点とする東京山の手エリア―青山、代官山、広尾、自由が丘―には常に日本の食文化をリードする店が多くあります。「この地域の人気店に出店してもらえば、渋谷らしい東横店オリジナルの食品売り場がつくれる」と考えた私は、雑誌や口コミで情報を集め、「これだ!」と思った店と交渉を始めました。しかし、出店交渉は困難を極めました。出店経験がない店にとって、百貨店の地下食品売り場は全くの異業種。加えて時代遅れというイメージがあったようです。「出店する気はないから、もう来ないでくれ」と言われたことも一度や二度ではありません。あまりの反応の厳しさに、普通ならば戦略の見直しが行われていたところでしょう。しかし、このプロジェクトは私を含めて非常に小人数のメンバーで動いていました。大きな組織の場合、新しい試みに対してセクションの壁が弊害になったり、少しでも問題が生じると否定的な意見が出てきたりしますが、人数が少ない分、メンバーが一丸となって信じた道を走り続けることができたのです。何度も店に通い、今までとは違う新しい売り場を目指していること、流行に敏感なお客様のために本当に美味しいものだけを揃えたいということを繰り返し説明しました。配置図などは何度描き直したか分かりません。その結果、「百貨店初」「渋谷初」のショップが23店舗も出店することが決まりました。欧風弁当とジェラートを売る若者に人気の店、有名シェフの味が楽しめるケーキショップ、ブームになりつつあったベトナム料理の店などなど。お客様に出来立て感を味わっていただくため、店内に厨房を配置し、目の前で調理できるような演出も凝らしました。最終案が固まったときは、「これでいける」と確信できるものに仕上がっていました。

写真
(写真上)
青山、代官山など東京山の手エリアの有名ショップが並ぶ店内。

(写真中)
出店経験のない店を説得するため、何度も描き直した店の配置図。

(写真下)
売り場の奥にある事務所では、スタッフがマーケティング調査を行ったり、改装計画を練ったりと地道な努力を重ねている。



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