VIEW21 2002.4  リーダー群像
 現状をどう捉え、どう行動したのか

先行するライバルを真似するだけでは
決して抜き去れない

 私が最初に実行したのは、東横店の地下食品売り場の現状把握と、ライバルとなる他の百貨店の売り場調査でした。好奇心いっぱいで出掛けたものの、そのあまりの違いに呆然とするばかりでした。他の百貨店には名だたる人気ショップが軒を連ねていて、その明るく清潔な雰囲気はお客様を引き寄せる魅力に溢れていました。それに比べて東急の東横店は建物自体も古く、店の構造が複雑で分かりにくい。おまけに渋谷のど真ん中にあるにもかかわらず、洒落たケーキショップの一つもない。流行発信の最前線である渋谷の特長を活かしているとはとても言えない状況でした。先行する競合店にどう追い付き、追い越すのか。光はなかなか見えてきませんでした。
 ところが、調査を始めて1か月が過ぎた頃です。個性的に見えていた各店の売り場も、よく見てみると、まるで金太郎アメのように同じに見えてきたのです。お惣菜にしても、お菓子にしても、出店している有名ブランドは決まっていて、違うのは店舗の配置やスペースだけ。さらに、一見賑わっているように見える他店の売り場も、前年比売り上げがどこも軒並み落ちて、本当は苦しいのだということが分かってきました。私は「他店に学ぶのは大切だが、もの真似ではダメだ。渋谷という立地を活かしたオリジナルな売り場をつくろう」と考え、「同質化からの脱却」をコンセプトとして打ち出したのです。


東急百貨店東横店
地下食品売り場改装プロジェクト

99年2月、東急百貨店は渋谷にある東横店の改革に着手した。中でも地下食品売り場は、改革の核として注目を浴びた。

99年2月
東横店に「リモデル準備室」を設置
各店舗から分野ごとのスペシャリストが集められた。地下食品売り場では、樋口氏がリーダーとなり、競合他店の売り場を徹底的に調査。コンサルタントなどとも会議を繰り返した。

99年7月
最終原案の社内プレゼンテーション実施
あまりにも斬新すぎるアイデアだったため、最初は批判の声が多かった。

00年1月
改装工事スタート
店のデザイン、厨房を含めたレイアウト、商品の売り方からパッケージまで、一店ごとの個性を活かすために、きめ細かい打ち合わせをしながら決めていった。

00年4月
「東急フードショー」改装オープン
訪れた人々が楽しみながら買える「食のテーマパーク」が誕生した。1年目は対前年比で150%の売り上げ成績を記録した。この成功を参考に各店の食品売り場も相次いで「フードショー」に改装された。


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