VIEW21 2002.4  指導変革の軌跡 福井県立美方高校

美方高校が
創立されたのは69年。当時、三方郡には高校がなく、地元住民が期成同盟を結成し、熱心に働きかけてようやく開校が実現した。待望の高校設立だけに地元の期待も高く、当初は地元中学生の多くが美方高校に進学した。創立時の同窓生の中には、大学教授や企業の社長など、現在、社会の第一線で活躍している者も少なくない。その後、進学面での不振が続いたこともあり、やがて同校は低迷期を迎える。成績上位層の生徒は、隣接する高校へと進学するようになった。一方校内では、問題行動を起こす生徒が増えてきていた。長谷先生が同校に赴任した89年は、ちょうどそんな時期に当たる。その年、美方高校の中退者数は年間30名近くに及んでいた。地域からも信頼を失っており、PTA総会の出席率は20%を切っていた。
 「生徒以上に変える必要があったのは、教師同士の結束力のなさでした。私自身ある教師から、この学校で気張ってもダメだ、どうせ何も変わらない、と忠告されたほどですから」
 長谷先生はまず、教師間のコミュニケーションを図ることから始めた。 運動部・文化部顧問会や干支の会など様々な会をつくり、互いの意見をぶつけ合う機会を増やした。
 「先生方はそれぞれ担当教科が違いますから、教科の詳しい話はできません。そこで共通の話題となったのが、学校行事だったんです。今までのような、ただ実施しているだけの行事ではなく、もっと生徒の気持ちを高めるものにしていきたいと。あの頃、ずいぶんいろんな行事を入れ替えましたね」
 その頃スタートし、現在も残っている取り組みの一つに、入学直後に行われる新入生宿泊研修がある。この宿泊研修が始まる前には、生徒の保護者に「息子、娘への手紙」を書いてもらう。そこには、16年間生徒を育ててきた保護者の想いが綴られている。夜、教師からの高校生活の心得に関する話が終わった後、手紙が生徒たちに配られる。中には手紙を読んで涙する生徒もいると言う。生徒の中には目的意識が希薄なまま入学してきた者も少なくない。その生徒が親からの手紙を読み、返事を書くことで、自らを振り返り、新生活に向けて思いを新たにするきっかけとなるのだ。
 また宿泊研修のオリエンテーションでは、教師によって部活動参加の勧めが説かれる。元々同校はボート部や駅伝が全国大会の常連であるなど、部活動が盛んだった。だが89年当時の部活動参加率は35%程度で、一部の生徒は部活を頑張るが、それ以外の生徒は「何もしていない」という状況だった。長谷先生と同年に美方高校に赴任し、学校改革に携わってきた藤田盛一先生は次のように語る。
 「当時は『部活動をやらないと充実した学校生活はない』というぐらいの勢いで、生徒に語りかけていました(笑)。学校生活でつまずかないためにも部活動などの特別活動に積極的に参加させ、学校にどっぷりと浸らせることが大事だと考えたのです。ちなみに、現在の部活動参加率は約80%に達しています」
 同校では新入生宿泊研修以外にも、生徒会リーダー宿泊研修、ホームリーダー宿泊研修など、宿泊研修を積極的に導入している。生徒が同じ宿で同じご飯を食べて、お互いを語り合う。その中で人間関係や学校に対する求心力が高まっていくことを重視したものだ。

教師の努力と共に、
学校は少しずつ落ち着きを取り戻していった。生徒が充実した高校生活を送る環境も整ってきた。だが、まだそれだけでは美方高校が地域からの信頼を勝ち得ることは出来なかった。その一番の理由は、やはり進学実績だ。
 「長らく中断していた中学校との懇談会を90年に再開させました。しかし当初は、本校に生徒を送り込んでほしいという私たちの希望に対して、中学校の先生方の反応は、美方高校に生徒を入学させて、本当に生徒の進路希望は実現できるのか、というものでした」(長谷先生)
 92年に同校は、地域の要望に応えるべく普通科の中に特進クラスを設置した。だがこれについては教師の間で「特進の生徒を特別扱いしてしまうことになるのではないか」と議論があった。そこで同校がとった方針は、すべての教師が一人ひとりの生徒にかかわっていくということだった。藤田先生は語る。
 「本校では、入試直前期になると、生徒一人ひとりの成績や志望校、受験科目などを全教師が把握した上で、科目ごとに担当教師を決めて個別指導をしています。また直前期以外でも、苦手科目克服で悩んでいる生徒がいたら、その科目の教師が一対一で生徒に特別補習をすることもよくある風景です。同時に就職希望者に対しても、作文が必要な生徒には国語の教師が面倒を見るというように、きめ細かく個別に指導しています。どんな進路を志望する生徒に対しても状況をきちんと把握し、すべての教師で対応しているのです」
 同校では小論文指導についても、全教師が携わっている。教師が当番制で気になった新聞記事や雑誌記事を切り抜き、毎週月曜日と木曜日の朝に全学年の生徒に配付して読ませる。生徒は放課後までにその記事の感想を記入し、担任に提出するというものだ。
 「校長以下40人の教師が、それぞれの視点から記事を抽出します。その多様なジャンルの記事を読みながら、生徒は関心の幅を広げていきます。一方担任は生徒の書いた感想文を読むことで、その生徒の思考の仕方や興味のある分野をつかめるわけです」(長谷先生)
 長谷先生は、近年同校で国公立大合格者が数多く輩出しているのは、日々の小論文指導の成果が大きいはずだと語る。生徒は記事を読み、書くことで、自分が社会でどう生きていくか考えを深めていく。社会に貢献したいという志が高まることで学習意欲が芽生え、それが大学合格に結び付いていると言う。


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