VIEW21 2002.4  指導変革の軌跡 福島県立安積黎明高校

 生徒に対して行ったアンケートでも「世界史の話を友人とするのが楽しい」「自分の限界だと思っていたことが、実は違っていたことに気付き、高い目標を設定することができるようになった」といった声が聞かれた。特に、後者の生徒は元々あまり成績がよくなく、向上心も弱かったのだが、世界史が突破口となり他教科でも成績を伸ばしていった。
 「私は、生徒の『主体性』は自然に育つものではないと思います。基礎力や学び方が身に付くことで自信が付き、自信が付くと勉強が楽しくなります。そうすると、さらに大きな楽しみを求めて生徒は自分で学びの世界を広げていくのです」(大竹先生)
 まず、問題を解けるようにさせることで、学びの面白さを実感させ、生徒の視野を広げていく。「入試問題演習を軸とした受験的な教科指導が、生徒の主体的な学びにつながっていくのです」との大竹先生の言葉に、星先生も菅野先生もうなずく。
 「世界史の授業で、生徒は『学ぶための方法論』を身に付けたのです。問題演習をこなすことにより、基礎知識を徹底的に身に付ける。そこから興味が広がり、参考書や文献を読みながら、社会の在り方や社会と自分とのかかわりを考える。こうした『学びの方法』は他教科にも十分応用できるものであり、大学での学び方そのものです。私たちはこの大学での学びにも通じる“知の最前線”に立つことを目指しています」(星先生)

「学びの方法」を
身に付けた同校の生徒は、土曜日、日曜日でも自主学習をするために学校にやってくる。休み時間や放課後でも、職員室に質問に来る生徒が後をたたない。民族問題について、英語、国語そして地学の教師たちが集まって生徒と議論を戦わす光景などは日常茶飯事だ。そこには、入試問題をただ解いて正解を得るだけではなく、学問の本質を理解した生徒と教師の学びの風景が広がっている。
 このような生徒の姿勢は、部活動にも見られる。全国大会で22年連続の金賞獲得を誇る合唱部の練習では、和声の響きの美しさを求めるだけでなく、詩の解釈にも妥協がない。
 「教師が浅薄な解釈を付け加えようものなら、生徒から見捨てられます(笑)」(星先生)
 同校の“知”は生徒と教師が切磋琢磨することで日々高められている。
 入試問題を解くことから始まり、それを生徒の自主的な学びにまで高めている同校の取り組み。このシステムを全校体制でさらに強固にするため、現在3年間を通した「指導マニュアル」づくりが進行中だ。
 また、同校の特色に新入生がすぐに馴染めるようにするには、中学校との連携が欠かせない。安田教頭が指揮を執り、中学生に授業を公開したり、中学の教師と研究会を開いたりと両者の関係も深まりつつある。同校は中学校も巻き込んで授業改革に取り組み、学校全体で“知の最前線”を目指している。

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学びの面白さを実感した生徒は、放課後だけでなく、土曜日、日曜日にも学校で自習を行う。生徒はコンピュータ室、理科実験室など一番自分が集中できる場所で机に向かう。



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