VIEW21 2002.4  特集 必要とされる「総合人間力の育成」の視点

学校独自の魅力を生み出すために
「総合学習」を積極的に活用
(東京都・A高校)

 全国アンケート結果からは、公立校と私立校で「総合学習」の捉え方にも大きな違いがあることが分かった。公立校では50%以上が「総合学習」を教科学力の向上に結び付けたいと期待している。それに対して、私立校は「総合学習」にどのような可能性を見ているのであろうか。

 都内の私立校の実情に詳しいA高校の教務部長は「私の知る限り、『総合学習』を積極的に活用したいと考え始めている私立校は増えている」と言い、その背景を次のように分析している。
 「私立校を取り巻く状況は年々、非常に厳しくなってきている。若年人口の減少の中、毎年入学定員を確保できるかどうかという不安は、実績ある進学校にまでひたひたと迫ってきている。(資料4参照)保護者にとって学校が我が子の進学志望を実現させてくれるのは当然で、加えて生徒の人間としての「生きる力」を伸ばしてほしいという強い要望がある。そのためには、自校の個性を今まで以上に鮮明に打ち出していくことが求められる。しかし、スポーツ大会や修学旅行、情報教育といった活動は、現在ほとんどの私立校で既に行われており、自校のオリジナリティーを打ち出すのは難しくなりつつある。そこで『総合学習』をSI(スクール・アイデンティティ)の明確化や、学校のセールスポイントの構築と結び付け、大きなチャンスとして捉えているのである」
 実際、A高校では03年度からはフィールドワークを中心とした「総合学習」を実施し、新たな学校の特色として、「知的付加価値の育成」を打ち出していくことが決定している。
 志望大合格だけが求められる時代は終わり、プラスαの教育を実践しなければ、たとえトップクラスの進学実績を上げている学校でも淘汰されていく。「総合学習」の研究は私立校にとって、文字通り、生き残りをかけた課題と言える。
 「総合学習」を教科学習に読み替えようとする私立校は、当初の予想よりも少なくなりそうだ。その背景には「学校の特色を打ち出していかなければ、学校の存続すら危ぶまれる」という強い危機意識があると言えよう。

図

中学校と連携した
生徒自身による進路選択の早期化
(東京都・B女子高校)

 国立大のセンター試験5教科7科目実施は、公立校はもちろん、多くの私立校にとっても悩みの種である。都内の進学校であるB女子高校では具体的な対応として、「1学年の数学の単位数を1単位増加させる」と言う。その理由を同校の進路指導部長はこう語る。
 「大学入試に必要な教科・科目数の増加で、必然的により早い段階での文理分けが必要になります。その場合、現実的には生徒の数学に対する適性が大きな判断材料になります。1年生で数学をしっかりと学ぶことで、基礎学力を育成すると同時に、3年生の最後まで本気で数学に食いついていけるかどうかを、生徒自らが自分の適性を判断するよう促すねらいもあるのです」
 同校では今後、中学校との連携を積極的に図っていく必要性を感じていると言う。
 「教育環境が変化する中で、中学校、高校が単独で様々な教育上の課題を解決するのは現実として難しくなりつつあります。学力・人格共に優秀な人材を育成していくためには、中学校との連携を図りつつ、6年間のレンジの中で、今まで以上に生徒の進路意識の育成を早期化する必要があります」

 教育環境が激変する中、それぞれの道を模索する私立高校では、生き残りをかけた真剣な検討が続いている。

まとめ

 全国の高校は週5日制及び03年度新課程の実施後も他校と遜色ない教育内容で、生徒・保護者、地域の期待に応えていくためには、環境変化への対応の遅れは許されないという危機感が強い。
 一方では、生徒・保護者の多様な指向に対応すべく、全国500校を目標としている公立の中高一貫校の設置など、高校のさらなる個性化が本格的に進んでいる。また、02年度から理数系に興味・関心の高い生徒をより一層伸ばしていこうとする「スーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)構想」も、研究開発校での取り組みが始まった。
 これからの高校には、他校にはない魅力ある個性が求められる。次号の特集では「高校個性化時代の到来(仮)」と題して、教育環境の変化に対応した各校の様々な取り組みを通して、日本の高校の将来像を予測する。


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