VIEW21 2002.6  国際人を育てる THINK GLOBAL

 キヤノンの国際理解研修では、「アイスバーグモデル」と「ハイコンテクスト・ローコンテクスト」という二つのアプローチで講義が行われる。アイスバーグモデルとは、異文化理解を氷山に例えて解説することだ。「海面に出ているたった10%程度の氷山。これは例えばアメリカと日本の学校生活の違いや、言葉の違いなどという目に見える違いのことを指しています。私たちは目に見える氷山ばかり気にしがちですが、実は水面下の90%に相当する異文化理解、つまり価値観や文化、歴史、宗教などを理解することこそが大切なのです」と細谷氏は説明する。
 一方、ハイコンテクスト・ローコンテクストとは、コミュニケーション方法の違いのことである。一般に日本はハイコンテクストであり、「一を聞いて十を知る」文化を持っている。逆に、ローコンテクストとは欧米流のコミュニケーション方法。文脈の含みの少ない文化なので、その分言葉による説明を多くする必要がある。
 「日本人は消極的だから言葉が少ないと思われがちですが、実はその背景にはこのようなハイコンテクストの文化があります。ビジネスの相手がどんなコンテクストを持っているかで、コミュニケーション方法を変える必要があるのです」(細谷氏)
 さらに細谷氏は、国際社会で活躍する人材になるために大切な能力として、ロジカルシンキングを挙げている。これは、論理的に物事を考え、相手にきちんと筋道を立てて説明する力のことだ。お互いに違う文化背景を持つ人間同士が議論をする機会が多い同社では、相手に分かりやすく伝える力が非常に重要だと細谷氏は強調する。
 企業や行政では、国際社会で活躍できる人材を育てるためには、ただ語学力だけを身に付けさせるのではなく、専門性、自分の意見をきちんと伝えられる力、物事に柔軟に対応できる力、そして自国の文化への理解を踏まえた異文化理解力を習得させる教育が大事だと考えているのである。

高校時代に身に付けたい力

 それでは、国際的に活躍できる人材になるには、高校時代にどのような力を身に付けておけばよいのだろうか。
 細谷氏は「英語ができる=国際人ではないですが、やはり英語ができると国際社会でビジネスをする上では有利です。例えば、当社では技術系の社員が多いのですが、彼らが読む学会報告書や技術専門誌では、英文の比率が高くなっています。また、最新の情報もインターネット上の英語サイトから入手する機会が増えていますので、理系を目指す人でも英文を読む力は絶対必要ですね」と語る。さらに細谷氏は、読解力に加えて「リスニング力も不可欠」と言う。
 「文法、発音は崩れていても『伝えたい』という気持ちがあれば、話す方は案外大丈夫です。ただし、現在はアジアやアフリカなど、なまりのある英語を話す人口の方が多くなっていますから、英語は今や聞き手の方が責任を持たなければいけない言語になったのではないかと思っています。相手の話をきちんと聞くという力は高校生のうちに身に付けておいてほしいですね」(細谷氏)
 また、兼松氏は国際社会で活躍するには「やはり自分の考えをはっきり言えることが大事」と言う。
 「語学というのはあくまでも意思伝達の手段ですから、肝心なのは何を伝えるか、つまりWHATの部分です。WHATの部分を培うためには、高校生のときに、自分に興味のあるものを一度突き詰めてみる経験が大事だと思います。映画に興味があるなら、字幕なしで見られるまで頑張るといったことでも構わない。ただ、授業では、興味がない教科でも諦めずに頑張ることも大事です。社会に出れば、自分の興味があることだけを仕事にできるとは限らない。そんな時でも、そこから何か面白いことや興味を持てるものを探し出す力が大切なのです」(兼松氏)
 国際化する企業や行政で求められる国際人としての資質は、職種や組織によって様々だ。しかし、異なる文化や宗教、習慣などを持つ人々と仕事をしていくには、やはり「自分とは違うものを排除せずに受け入れると同時に、自分のことや自分が背負っている背景を、相手に理解してもらう」(和田氏)という姿勢が大切である。また、細谷氏が言うように「相手を理解することと同意することは別。自分の意見をしっかり持った自立した個人を確立することが国際人への第一歩」なのではないだろうか。


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