VIEW21 2002.6  国際人を育てる THINK GLOBAL

企業・行政の人材育成

 では、各企業や行政では、国際社会で活躍できる人材をどのように育成しているのだろうか。
 国家公務員の場合、国際化のための研修は、「行政官長期在外研究員制度」が中心だ。これは、各省の若手を海外の大学院に2年間派遣するという、いわゆる留学プログラムである。語学の習得だけでなく、行政の国際化、複雑・高度化に対応できる人材の育成を目的としている。また、海外での経験を積むという意味では、国際協力の一環として行われている国際機関や外国政府への派遣もある。発展途上国への技術援助などもこれに含まれる。これらの派遣者数の推移を示しているのが資料34だ。どちらも、進む国際化に合わせて人数が増えてきていることが読み取れる。

図

 国連機構の一つであるILO(国際労働機関)に2年間派遣された経験のある和田氏は、自身の経験から国際社会で働く際の心構えについて次のように語る。
 「国際機関で通常使われる公用語は英語かフランス語。日本人にはやはり言葉のハンディキャップがありますし、謙譲を美徳とする文化的背景があるからか、自分の意見を主張することが苦手ですね。しかし、国際舞台では、言葉のハンディキャップがあるからと言って手加減はしてもらえません。言葉が話せた上で、自分の意見やできることをどんどん言っていかないと、何の仕事も与えられません」
 一方、「自由と自立」を企業理念とする博報堂は、やる気のある社員が自由に会社の語学学習メニューを受けられるようになっている。
 「全社員を対象に、通信教育からグループ学習、マンツーマンの英会話まで様々なメニューが用意されています。海外でチャンスを広げたければ自分で勉強するのが基本ですので、どの研修を受講するのかはすべて自己判断です。ただし、海外赴任が決定した社員については、語学だけではなく、マナー、習慣、文化などを事前に学習する研修が組まれます」(兼松氏)
 しかし、兼松氏は英語以外にも国際社会でビジネスを展開するために大切な要素があると強調する。
 「いくら言葉が堪能で赴任先の文化を理解していたとしても、ビジネスでは予期せぬアクシデントが必ず起こります。その時の状況に柔軟に対応し、迅速に判断を下していく心構えが大切だと思います」
 つまり、国際社会で活躍できる人材とは、人ときちんとコミュニケーションができる人、自分の価値観とは違った物事に出合っても柔軟に対応でき、仕事をこなしていける人であると言えるだろう。
 そのようなビジネスに対する心構えを、国際理解研修で身に付けさせようとしているのがキヤノンである。英語を学ぶと同時に、コミュニケーション力、プレゼンテーション力など、ビジネスに必要なスキルや異文化理解について学ぶ。
 「英語に関しては、あるレベルまでは勉強の仕方をアドバイスするだけで、一人ひとりの自主性に任せています。しかし、高度なプレゼンテーション力、ネゴシエーション力、ミーティングスキルなどを学ぶ上級レベルに関しては、会社が費用を負担します。英語でプレゼンテーションをしたり、交渉を進めたりすることは、今ではビジネスを進める上で、欠かせない能力ですから」と細谷氏は語る。


<前ページへ  次ページへ>

このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。

© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.