VIEW21 2002.6  リーダー群像
 現状をどう捉え、どう行動したのか

「何のメリットもない」
次々と聞こえる批判の声に委員会は知恵を絞り……

 委員会で出し合った案を行動に移すのは、簡単ではありませんでした。当初は、協力をお願いにうかがった先々で反発がありました。例えば、伊勢佐木町商店街にお願いした「エコ商店街モデル事業」。これは、瓶や缶、食品トレーなど計8種類を商店街が回収し、資源を出してくれた人にエコチケットという商店街で使える商品券をプレゼントするというものです。しかし、資源を商店街で回収するとなれば、手間も費用もかかります。しかも予算の裏付けは何もありません。当初は「こんな計画にかかわっても何のメリットもない」と、突っぱねる方もいました。しかし、このモデル事業は、プロジェクトの成否を握る最初の一歩。諦めるわけにはいきません。組合の夜の会合に何回も足を運び、「売り上げにはすぐに結び付かないかも知れないけれど、結果的にこのモデル事業が商店街の活性化につながるのではないでしょうか」と粘りました。消費生活総合センターの所長当時に身に付けた交渉力が役に立ったのでしょうか。そのうち前向きに考えてくれる方が増えてきたのです。一旦協力してくれると決まると、あとは商店街の方々が率先して、様々なアイデアを出してくれました。
 一方、スーパーやデパートなど、流通業者との話し合いは困難を極めました。横浜市では、容器包装ごみが、ごみ量の容積で約6割と一番多くを占めています。そこで、各企業で出した容器包装ごみを自主回収できないか、また、一つの努力目標として、5年間で30%削減することができないかという提案をさせていただいたのです。
 「冗談じゃない。そんなことできるわけがない」というのが、大半の企業の意見でした。会議でおおむね了解が取れても、その結果を各社持ち帰っていただいたら、次の会議では反故になっていたこともありました。景気が低迷する中、流通業者も必死で生き残りをかけています。ごみを減らすためにお金をかけていられないというのが本音だと思います。ただ一方で、環境問題に対して意識の高い市民も増えてきています。環境問題に積極的に取り組んでいる店に好んで出かける市民も少なくはありません。そこで、委員会のメンバーは知恵を絞り、企業の方々に協力していただくのと引き換えに、「行政と企業が手を組んで、ごみ減量化に向けて努力しています」という大々的な広告を行うことにしました。協力をしてくれた企業の名前をポスターやパンフレットに掲載して、アピールするのです。企業の方と何度も会議を持った結果、5年間で30%削減という数値目標は各社独自の基準に変更されましたが、横浜ルールとして、「環境にやさしい取り組み行動協定」を結ぶことには成功したのです。
 このような一連の試みに対し、徐々にですが反響も出てきています。当初は横浜市とだけ独自のルールを結ぶことには慎重だった企業も、徐々に前向きに取り組んでくれるようになりました。それに、スーパーの店頭や商店街の駐車場で定期的に行っている自主回収も、チラシなどで事前に市民に知らせることで、かなりの量が集まるようになったのです。一つひとつの取り組みは小さくても、少しずつ積み重ねていけば、それが大きな流れとなって、多くの人を巻き込んでいくことができるのだということを実感しました。

子供たちへのメッセージを胸に込めて、
次のアクションにチャレンジ

 私たちが行っているプロジェクトは、一人ひとりの熱意に任されています。息の長い努力が必要で、結果もすぐに出るものではありません。でも、いろいろな分野の方々と協力しながら一歩ずつ進んでいければと思うのです。実は今、市内の養豚農家と協力して、小学校の給食の残飯を豚の飼料としてリサイクルするというモデル事業を始めたところです。生育状況もよく、この豚肉を今後、是非市場に出し、できれば給食に還元したいと思っています。そうすることで、子供たちに資源の大切さを目に見える形で伝えられますし、環境問題、食糧問題など様々な学習をしてもらうこともできるはずです。このような小さな試みが、大きな流れをつくっていくことにつながると思います。
 このプロジェクトを通して、「何のためにやるのか」をきちんと伝え、意欲を持って人と接すれば、自ずとネットワークは広がるのだと実感しました。新しいアクションを起こさなくても、無難に仕事をこなせばそれでいいと言う人もいるかも知れません。でも、せっかく今の立場にいるのだから、一人の生活者としてごみ問題に向き合い、できることにはどんどんチャレンジしていきたい。そして、その想いはきっと市民にも伝わり、大きな流れになるはずだと信じています。


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