VIEW21 2002.6  新課程への助走

2003年度新課程に向けた
課題認識とその対応

 2003年度カリキュラムに関する議論の焦点は、「実際に新カリキュラムを実施していく上では、どのような対応や準備が必要になるのか」という運用面のテーマへと移りつつあるようだ。自校の課題をどう認識し、どう対処すべきか? 事例校の取り組みから考えてみたい。


事例1
静岡県立磐田南高校の場合

すべての入学生に理科3科目開講で対応

 高校現場で、03年度に向けて検討されている課題の一つに医学部入試の理科3科目化への対応がある。これに対し、すべての入学生に理科3科目の履修を保障するという方針で臨む磐田南高校に、これまでの検討の経緯と今後の対応策についてうかがった。

 多くの高校が、センター試験の5教科7科目化には対応しつつも、「医学部志望者に対しては、教師の個別指導や補習等を通じた対応を摸索せざるを得ない」と考えている。その背景には、医学部入試に対応するためとは言え、理科3科目の開講が、限られた時間の中でいたずらに履修科目数を増やすことになり、かえって基礎科目の学力低下を招くのではないか、という危惧がある。
 だが、磐田南高校では、従来実施してきた65分×5コマのカリキュラムをベースに、理数科のみならず、普通科の生徒に対してもあえて理科3科目履修を組み込んだカリキュラムを設定した。進路課長の鈴木孝雄先生は決断の背景を次のように語る。
 「確かに理科3科目の開講は大きなチャレンジです。受験指導の観点からは高校入学時から医学部進学に特化したコースを開設したり、個別補習の実施を前提としたカリキュラムを編成した方が効率がいいのかも知れません。しかし、長年に渡り文武両道の精神に基づく全人教育を推進してきた本校では、そうした選択肢はほとんど議論されませんでした。むしろ、生徒自身が自分の適性を見極められるだけの指導を十分行い、その上で、生徒のあらゆる進路志望に対応できるカリキュラムを用意することこそ、本校の使命ではないかと考えたのです」
 同校ではここ数年、大きな教育改革の流れを受けて、自校のSI(スクール・アイデンティティ)を確認するための真剣な議論が続けられてきた。そして、理科3科目入試の方針が明らかになった00年度には「豊かな人間性を備えたリーダーの育成」というビジョンが既に確立されていたのである。同校の決断は、教師間で共有された確固としたSI認識に支えられたものなのだ。


写真
静岡県立磐田南高校教諭
鈴木孝雄
Suzuki Takao
教職歴30年目。同校に赴任して14年目。進路課長。化学担当。「教師と生徒が信頼関係を持てるよう、いい意味で田舎臭くありたい」

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