VIEW21 2002.6  新課程への助走

綿密な生徒の実態調査に基づく改革案の決定

 改革の方向性について強いコンセンサスが得られた背景には、1年以上もの期間を費やして確固としたSI認識を教師間で確立できたことが大きい。中でも、同校の取り組みで注目すべきは、一連の改革に向けた議論の裏付けとして、綿密な「生徒意識調査」の成果が活用されたことであろう。進路指導部長を務める菅野恭介先生はその効果を次のように語る。
 「確かなビジョンに基づいて取り組みを体系化できるかどうかは、学校としての方向性をどれだけしっかりと確定できるかにかかっています。実は近年、生徒気質の変化を受け、本校の教師の間にも、小野高校として決して揺らいではならない部分=『不易』の部分が変わりつつあるという漠然とした危機感がありました。そこで教育改革に向けた論議を行う前提として、生徒意識調査を行い、SI構築に向けた議論はもちろん、『総合学習』の内容の選定や、授業改革に向けた議論にも活用したのです」
 事実、「総合学習」のテーマが「考える技法」に決定されたのは、この調査によって生徒の自学自習姿勢が崩れつつあることが浮き彫りになったからだという。
 「本校の『総合学習』のテーマは、全く新規に考えたものではありません。あくまでも本校の教師が長年の経験の中で感じてきたことを、数値の裏付けによって具現化したものなのです」
 03年度に向けた議論を深めていくためには、自校の問題をいかに正確に把握し、それに適切に対処するかが問題となる。また、その過程で起きる様々な見解の相違を解消する上でも、自校の姿を客観的に把握する重要性は大きい。学力向上という大きな目標に向けて、独自の「総合学習」プランを生み出した小野高校の事例は、同じ目標を掲げる他校にとっても参考になる点が多いだろう。

資料5  小野高校「生徒意識調査」報告書
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小野高校は詳細な「生徒意識調査」を実施し、その結果を全52ページにも及ぶ報告書にまとめた。この成果は改革に向けた議論の際、大変参考になった。
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調査項目は、自宅学習の時間や部活動の参加状況の他、学習行動と生徒の自我形成の相関など、独自の視点から多角的に設定された。

まとめ

 事例校の取材を終えて感じたのは、新課程を目前にした各校の問題意識が、学校の外に向かっても広がり始めたことである。磐田南高校や府中高校においては、中高連携がまさに現実的な課題として認識されており、磐田南高校では既に、近隣の中学校と連携を図りつつ、中学生の学習実態調査が行われている。
 また、教育目標達成のためには保護者の巻き込みを図る必要があるという点でも3校の認識は一致する。特に小野高校においては、1年次の文理分けの時期に、生徒の保護者が講師となった進路講演会を実施するという取り組みが、01年度から試みられている。そして、「総合学習」によって自己学習力を養成し、ひいては新課程への対応と学力の向上を狙っているという点も各校共通の視点と言えよう。
 今回の事例校の取り組みを参考に、新課程に向けての検討を更に進めていただければ幸いである。


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