VIEW21 2002.6  指導変革の軌跡 福岡県立八幡高校

99年度、
八幡高校理数科は、長らく続けていた九州地方内での研修を取り止めて、筑波研究学園都市研修旅行をスタートさせた。
 同校の研修旅行はかなりハードだ。対象は2年生の理数科生徒全員。夏休み前半に3泊4日で実施される。スケジュールには大学見学も絡ませている。1日目、羽田空港に到着すると生徒はすぐに大学に直行する。昨年度は早稲田大理工学部の施設見学を行い、大学教授による講義を聴講した。2日目からは研究所訪問がスタート。理化学研究所、筑波宇宙センター、防災科学技術研究所など10か所以上の研究施設の中から、生徒は自分の興味のある施設を選択し、グループで見学する。
 「研究所の方には、単なる施設見学にとどまらず、できるだけ現場で働いている人の生の話を聞かせてほしいとお願いしています。そこまで時間や手間をかけて協力してくださるのは大変だと思うのですが……」
 しかも研修は、それだけでは終わらない。夜は宿舎に、筑波で働いている同校OBや筑波大の教授が訪ねてきて、研修室で講義が行われる。同校の水城俊幸先生はこう語る。
 「生徒は4日目にもなると、さすがにヘトヘトです。でもこの4日間が、生徒たちが将来科学者や技術者になるための芽を育む貴重な機会になるのです」
 例えば理化学研究所ライフサイエンス筑波研究センターは、遺伝子研究においては国内で最先端の研究所だ。生徒たちは、同研究所の組換えDNA実験棟で、バクテリアの遺伝子を組換えて新種の細胞をつくる遺伝子組換え実験の施設を見学した。高校の理科の授業ではもちろん、テレビなどでもめったに見ることができないものだ。
 その成果は端的に現れた。理化学研究所を見学した生徒の中の一人が研修を契機に医学や薬学に興味を持ち、自分で免疫学や血液に関する難しい文献を探してきて研究するようになったのだ。そして彼女は昨春、九州大薬学部のAO入試に合格した。合格体験記には、「筑波研修で得たこと、研修旅行のための事前研究や事後の報告会のために調べたことが、自分の将来を決める上で大変役に立ちました」と書かれていた。彼女に限らず、多くの生徒にとって筑波研修旅行は未来へ目を見開く大きなきっかけとなっているはずだ。

図

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