VIEW21 2002.6  特集 魅力ある学校づくりにどう取り組むか?

教師に求められる様々な努力

 こうしたプロセスでの履修決定をサポートするためには、教師の側にも様々な努力が必要とされる。
 「単位制における履修科目の決定は、そのまま生徒の進路に直結します。ですから、もし生徒が授業の内容に関する質問をしてきたとしても、そこで本当に必要とされるのは生徒の将来の進路まで見越したアドバイスです。教師には、自分の担当科目のみならず、進路指導の知識も必要です」(田中先生)
 また、カリキュラム編成の実務面においても教師の負担は相当なものになる。
 「生徒の希望をできるだけかなえるために、本校では生徒の希望を聞き終わってから次年度の開講科目を決めています。そのため、開講科目が決まるのは毎年11月前後と、他校に比べてもかなり遅くなってしまいます」(塩川先生)
 実際、塩川先生によれば、生徒の履修パターンは例年150通り前後にも及ぶという。講座編成のためのコンピュータ・プログラムを開発するなどして作業の効率化には努めているものの、それでも「何とか4月までに間に合わせるのが精一杯」だと言う。

今後に向けた課題と展望

 このように、奈良高校の単位制は、「生徒の自主性を尊重する」という前提に極めて忠実な取り組みである。その原則は学級運営においても貫かれており、各種学校行事も各クラス単位の自主的な活動によって支えられている。同校が生徒の帰属意識の維持に成功しているのも、「自主性の尊重」という気風が、学級レベルで共有されていればこそだ。
 だが、それだけに、生徒の側に自主性が育たなければ、同校の取り組みの前提自体が揺らぎかねない。実際、塩川先生によれば、近年は「自習」を選ぶ生徒が減るなど、生徒気質の変化が目立ってきたという。
 「これは無視できる問題ではありません。そこで今年度から、1年次に『総合学習』の時間を設定しました。生徒の自主性を引き出し、進路意識を高めることがねらいです。自主性を育むためには、やはりある程度のサポートが必要になってきていますね」(塩川先生)
 また、講座数の維持も大きな課題だ。週5日制により授業日数が削減される一方で、国立大学のセンター試験5教科7科目化などを受け、生徒からは「もっとたくさんの講座を受講したい」という要望が出てきている。同校では02年度より45分×7コマに時間割を変更して講座数を増やした。だが、普通科の枠内で単位制を実施する同校の場合、教師の加配がない上に、02年度は学級数が10クラスから9クラスに減っている。教師の負担をどう軽減するかは大きな課題だ。
 生徒の自主性に基づく単位制のメリットを維持し続けるためにどのような体制を組んでいくのか? 同校の今後の展開が注目される。


 「生き残りをかけて」という言葉を学校でうかがうことが多くなった。同一県内や同一学区内に、これまでの枠組みを越えた「中高一貫校」などの新たな特色を持つ高校が出てくる中で、それぞれの高校はどのような特色を持った教育を目指すのか、地域の生徒や保護者に明示することが、今まで以上に求められるようになってきている。
 そこで問い直さなければならないのは、「どのような生徒を育成していくのか」という教育理念そのものであろう。そして、その具現化のためにどんな教育内容と教育方法が求められるのかを深く追求していくことが自ずと「個性化」につながるのではないだろうか。紹介した各校においても、中学入試問題の検討や6年間のカリキュラム作成、学校設定科目の開設等において、育成したい生徒像の共通理解が検討のベースに置かれていた。そして、「いかに生徒の進路観を醸成し、学びへのモチベーションを高め、自己実現を図らせるか」という点においても、「総合学習」や進路ガイダンスの充実などの施策がしっかりと行われていた。
 その上で、3校共プランの実践と検証の積み重ねを通して改革のレベルアップを図ろうとしている。
 「個性化」とは、決して制度的な目新しさを追い求めることではないはずだ。各高校が生徒や保護者、地域から期待されている教育や現状の課題を十分に踏まえ、育てたい生徒像を明確にすること、そしてこれまでの自校の取り組みの成果や伝統を踏まえながら、目指す教育をどう実現していくのかを考えていくこと―その延長線上に望ましい制度活用の在り方も見えてくるのではないだろうか。


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