ただ人間の感情となると話は別だ。
「次にしこりを残さないようにケアするのも私の役目。案を採用できなかった社員に対しては必ず、『今回はこういう風になったけど、先を見通したらそうせざるを得なかった』と説明します。同じ人間同士だから話し合えば分かる。そのためには、グループ全体の目標を明確にし、共有することが大切です。目標が共有されているから、都合の悪いことでも言うことができるのです」
上田氏が日々大切にしているのは、そのような人間対人間の関係だ。だから週1回の定例ミーティングは欠かさないし、勉強会も頻繁に開く。社員の席を肩書き順で並べるのではなく、ベテラン社員が若手を挟むような形で並べているのも、人間関係を重視すればこそだ。
「肩書き順だと、情報が流れていくだけで下からの意見が汲み取れない。隣同士で気軽に話し合える関係をつくると、部下がどんな仕事をしているかがよく把握できますから、窮地に陥りそうになっているときは、救急車となって助けてあげられる。このような日々の積み重ねで、組織の人間の信頼関係は随分変わってきていると感じます」
新しい業務に挑戦し 自分が歩いた足跡を残してみたい
確定拠出年金がスタートして約1年。運営上の問題は一つずつ解決できてきたが、まだまだ順風満帆とは言い難いのが実状だ。上田氏自身も、手掛けていた仕事がライバルの手に渡ってしまい、悔しさを噛み締めたこともある。
「そんなときは、契約が取れなかった企業に必ず再度訪れて、『どうして駄目だったか教えてください』とアドバイスをいただき、他の社員にも結果を伝えるようにしています」
例えば、以前は顧客へのプレゼンテーションは、プロジェクターとプレゼン資料を使用して行っていたのだが、「確定拠出年金の運用イメージがわかない」という意見を受け、すぐに次回からは、ライフプランシミュレーションのデモを取り入れるようにした。
「確定拠出年金は、お客様にも年金運用の知識を身に付けていただかなければならないため、日本社会に浸透するには時間がかかります。厳しい状況が続きますが、小さなアイデアを辛抱強く積み重ねていくしかないのです」
課題も山積みで、上田氏自身、休日でも休めない日が続く。しかし、「元々『新しいことをやりたい』『新しい業務の中でマニュアルをつくり、私が歩いた足跡が歴史になるようなことをやりたい』と思っていた」と言う上田氏。
「先日、他の部署にいる同僚から『お前、今ハッピーだろ?』と言われたんです。『お前ずっと言ってたじゃないか。お客様のライフプランを一緒に考えられる仕事がしたいって』と。確定拠出年金は運用だけではなく、会社の人事制度、会計制度など様々なことにかかわれます。サラリーマンの一生を考えてみると、まさにライフプランそのものなんですね。少子高齢化社会では、年金は人の福祉にかかわる大きな問題です。そういった社会的要請に応えていけるという意味ではとてもやりがいがありますね。社員全員のモチベーションアップにもつながっていると思います」
決して率先して部下を引っ張っていくタイプではない。しかし、丁寧にコミュニケーションを図っていく中で、部下の信頼を一心に受けている上田氏。「今、自分の夢が少しずつ実現しつつあるような気がします」という上田氏の言葉は、「確定拠出年金プロジェクト」にかかわっている社員全員の思いでもある。
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