Chapter 2 シラバスの効果とは
次に、シラバスを作成することによってどのような効果が得られるのかを、以下の3つのポイントから検証してみたい。
1 生徒・保護者の安心感の醸成
シラバスの効果は多々考えられるが、その第一は学校の具体的な教育内容の説明を通した「生徒・保護者の学校に対する安心感の醸成」ではないだろうか。これは大学がシラバスを作成する目的と一致する。
学校に通う生徒、通わせている保護者にとって、現代は「不安の時代」と言える。教育内容の大幅削減、完全週五日制の実施、「総合的な学習の時間」や「情報」の導入を目玉とした新課程の施行、大学入試センター試験の5教科7科目化あるいは大学の再編・統合や国立大学の独立行政法人化論など、数え切れないほどの教育環境変化の中で、生徒・保護者の不安には計り知れないものがある。
その生徒・保護者に対してSIと共にその実行プランであるシラバスを示すことは、大いなる安心感を与え、学校への信頼を増すことになる。実際、早くからシラバスを活用しているある進学校では、毎年、新入生の通塾率が大幅に減っている。中学校時代に高校入試のために塾に通っていた生徒や、塾通いに熱心だった保護者がシラバスを見て学校の指導に安心感を持ち、塾より学校の指導を信頼した結果であると言う。シラバスは学校の説明責任(アカウンタビリティ)を最も効果的に果たす役割を持つのである。
2 指導の質や方法の改善
また、シラバスの作成により、教える側の指導の質や方法の改善が期待できる点も見逃してはならないだろう。つまり、シラバスの作成により教科指導の目標と方法に関するノウハウが教師間で共有され、結果として指導方法のレベルアップが図られるのである。
教師の教授法には一種独特の芸風というものがある場合が多い。一昔前はその芸風が授業の雰囲気を作り出し、いわゆる名物教師なるものを生み出していた。また、その教師が教えるクラスは成績が突出して良い場合も多かった。もちろんその逆も少なからずあったかも知れない。
しかし現在では、生徒の資質や価値観が多様化し、学習意欲の減退や塾依存の体質が蔓延している。さらには授業時間が削減され、教える内容が多岐に渡る中で、個々の教師の個人的な努力だけに頼っていたのでは従来通りの教育成果を上げていくことは非常に難しくなっているのではないだろうか。
シラバスを作成し、一定水準の教授法の統一が図られることにより、多様化する生徒の資質に対応した指導法の確立が期待できるのである。
3 生徒のモチベーションアップ
もう一点は、教わる側の学習モチベーションの向上を意図したシラバス作成である。劇変する教育環境に対応するためには、教える側の指導力の向上や教師間のチームワークの改善と共に、学ぶ側のモチベーションアップが不可欠であると言えよう。
シラバスを早くから作成している学校の教師たちは口を揃えて「シラバスを作成するには関係する教師全員のコンセンサスが必要ですから、そこに話し合いが成立し、授業の進め方や何をどう教えようかという議論が発生します。このことがすごく大切なのです」と言う。
また、生徒にとっては「何の目的のために何の授業を受けているのかが明確になり、学習意欲が湧いてくるし、何をどう学習したら良いかが分かる」ということになるのである。
特に進学を前提としている学校では、授業内容と授業時間の削減の中で教える側の指導力向上が強く求められると共に、生徒自らの学習活動にその効果を期待することになる。つまり、指導ノウハウの共有化と、生徒の学習モチベーションアップをシラバスの作成によって期待できるのである。
また、それほど進学を意識しない学校であっても、学習意欲の乏しい生徒に、興味・関心の幅を広げ、学校の存在意義、学校へ通う意義を体感させ、より良い人生への道筋を示すことは大切なことである。何のために学校に行っているのかに疑問を抱く生徒に対し、シラバスを通して学校で学ぶことの意義や、毎時間の授業で学ぶ内容とその意味を分かりやすく魅力的に伝え、学校へ行くことが自分の人生にとって得るものが多いと理解させることは重要なことではないだろうか。
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