VIEW21 2002.9  新課程への助走

Chapter 3
シラバス作成の流れ

まずはシラバスを形にしてみる

 ここまで、シラバスの必要性や定義、目的と効果を確認してきたが、実施に向けては、それほど難しく考えるのではなく、まずは作成して活用してみることである。各教科なら教科シラバス、進路指導部なら進路シラバスをできるところから作成してみると良いのではないだろうか。初めから完璧なシラバスを作り上げることを目指すのは現実的ではない。「生徒にとっては一回きりだから」という意見もあるが、授業でも進路指導でも良いものを作り上げるためには、長年の検証が必要になることは避けられない。
 シラバスを常に自己点検・自己評価の対象として、生徒の実態から見て正しく目標が設定されていたのか、あるいは学習内容やその項目の配列や量が適切であったのか、そしてシラバス自体が生徒にとって使いやすく自主的な学習に役立ったのかなどを見直してみる。シラバスとは、教える側の意欲と教えられる側の意欲を考えながら、次の計画を立て、さらに実行に移していくサイクルの中で徐々に確かなものに作り上げていくものなのである。
 少なくとも「学習内容」と「学習目標」を設定したシラバスを作成することができれば、日々の授業の目標を明確にすることができるし、改善していく原動力にもなるに違いない。

シラバスを通して
全教師で指導ノウハウの共有を図る

 先述のある進学校のシラバスは、1992年度に初めて作成された。その意図は明らかに「進学実績向上のための授業改善」であった。
 シラバスを作成するに当たり、進路指導部の呼び掛けで各教科が最初に着手したのは「3年間の授業概案」である。これは、3年間の授業の大まかな設計図というものなのだが、それまで3年間を通した授業の流れ図的なものは存在せず、当時としては画期的なものであった。
 年度当初の各教科会でこの概案を教科担当全員で検討し合意を得た上で、各学年の指導細案の作成に入る。ベクトルの方向性だけは同じものにし(長期目標の合意)、指導の中期・短期目標や学習内容・方法は当該学年の独自性に任せるというやり方である。もちろん短期間で作成できるわけではないので、各学年の教科リーダーがあらかじめ大まかなものを作成し、その共有と手直しを年度当初にするのである。
 さらに、「授業担当者会」と名付けられた会議が開催され、各学年のシラバスが関係者全員で共有される。
 また、この学校のシラバスには芸術、保健・体育、家庭科を含めた全教科シラバスの他に、1年間の主要行事予定表、LHR年間計画表、小論文指導計画、学年の指導方針、年間授業時数、進路指導年間計画などが含まれており、「授業担当者会」で共有された後、生徒に配付され、担任が説明することになっている。
 各学年の「授業担当者会」が終了すると、全学年のシラバスが一冊に製本され、全教師に配られて学校全体としてのシラバスを共有することになる。そうすることによって、全体の中での自分の位置を知り、学校全体のノウハウを知ることができる。
 教科シラバスを眺めてみると、各教科間でのバラツキはあるものの、学習目標を明確にしている教科にはその完成度の高さをうかがうことができる。例えば、現代文の2学年1学期目標は「様々なジャンルの作品を読解・鑑賞し、筆者の独創的な物の見方や考え方の理解を通して人間存在の意味や自分を取り巻く世界との関係性について思索する態度を養う」とされており、現代文の授業が何をねらいとし、そのためにどのような手法を用いて展開されているのかがよく分かる。10年の歳月の中で徐々に完成度が向上してきたと言えよう。そして、その成果は安定した進学実績となり、学校への生徒・保護者の信頼を年々高める源泉となっている。


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