各教科における検討段階
「プロジェクト委員会」からの依頼を受けた各教科では、12月を目処にシラバスの作成が進められた。「プロジェクト委員会」メンバーで数学科主任の加藤友作先生は、数学におけるシラバス作成上の工夫を次のように語る。
「数学の場合、単元が比較的明確であるというメリットはありますが、年度をまたいで教えなければならないケースも場合によっては出てきます。そんなとき、年度末の進度に差が出ていては対応できませんから、次年度に向けて現実味のあるシラバスを作成するためには、授業進度のズレをきちんと計算に入れたシラバスにすることが不可欠でした」
そこで数学においては、現在1年生を担当している教師が次年度の2年生のシラバスを、現在2年生を担当している教師が3年生のシラバスを作成した。
「これにより、次年度にそのクラスを受け持つ教師が変わっても、スタート地点がズレることはありません。また、数学科では、01年度以前から教科内部で3年間の指導計画をすり合わせてきましたから、その意味では比較的スムーズにシラバスを完成できたと思います」
一方、教科の特性によってはシラバスの作成に苦労することもあったようだ。進路指導主事で英語担当の齋藤淳子先生は次のように語る。
「英語教育に力を入れている本校の場合、ALTと随時話し合いながら授業進度を決めていくような場合が少なくありません。また、学年によって使う教科書も異なるため、授業進度を教科書の単元で示すこともあまり現実的ではありませんでした」
そこで英語の場合は、学習内容を教科書の単元で示すのではなく、「節の使い方に慣れる」など、時期ごとに生徒に身に付けてほしい能力で示すことにした。
「同様の問題は保健・体育、家庭科など実技を重視する教科でも起きやすいようです。こうした教科・科目については、別冊の媒体を使ったフォローが必要でしょう」(齋藤先生)
また、シラバス作成を通して明らかになった課題もあった。「プロジェクト委員会」副委員長で化学担当の市川啓二先生は次のような問題を指摘する。
「よく化学と数学で科目間の進度調整が必要だという意見が聞かれます。確かに、必要なことではあるのですが、だからといって、化学で pHを扱う場合に、数学で対数曲線を扱っていなければ教えられないということはありません。こういった部分はシラバスで厳密に縛るというよりは、教師間の連絡を密に取ることによって解消すべき問題だと考えています」
生徒の視点で使えるシラバスを目指す
各教科の原案は12月に回収され、1~2月には再び教師全員の手による最終的な見直しが行われた。三角先生はその際に同校が重視したポイントを「生徒が使えるシラバスになっているかどうか」に置いたと説明する。
「シラバスは何よりも生徒が使えるものでなければなりません。12月の時点では、教師の視点から書かれていた教科も多く、『学習目標』が『指導目標』となっていたり、本来は『学ぶ』とすべきところが『教える』となっている部分が見受けられました。書式全体を、生徒の立場に立った能動態に書き直すと共に、進路に応じた科目選択の方法や、各教科の特性に応じた学習法のコーナーなどを、新たに別パートとして付け加えました」(三角先生)
前出の「学習の手引き」のコーナーも、実は、この時点の見直しにより付け加えられたアイディアだという。
1年間に渡る入念な準備を経て完成した同校のシラバス。その未来像について、松本先生は次のような展望を語ってくれた。
「今年度のものはあくまでもパイロット版と捉えています。年度ごとにバージョンアップを繰り返して、最終的には『この参考書のこのレベルの問題をこなせるようになる』など、より具体性のある学習目標を生徒に提示できるレベルまで磨き上げていきたいですね。また、今後はシラバスがどのように活用されているのか、生徒の実態把握に向けたアンケートを実施していく予定です。こうしたリサーチの結果も反映させ、より良いシラバス作りにつなげていきたいと考えています」
今年度の運用実績を踏まえて、同校のシラバスが今後どのような進化を遂げるのか、今後の取り組みの発展に注目したい。
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