VIEW21 2002.9  指導変革の軌跡 熊本県立東稜高校

しかし、10期生が
過去最高の進学実績を上げたものの、学校全体としては次のような課題があると、光岡先生は考えていた。

  • 本校なりの進学指導方法が確立しておらず、学年により指導法と理念とが異なる
  • 進学指導に対する各部各学年間の連携がとれていない
  • 教科内において今までに優れた結果をもたらした指導法を研究し、継承・深化させる環境ができていない、など

 そこで、00年度、10期生を送り出した光岡先生は、10期生の成果を足掛かりにして、こうした課題の解決に取り組むことにした。基本的には系統別進路学習やテーマ別セミナーハウス宿泊研修など10期生での取り組みが踏襲されたが、新たに着手したのが、「学力向上対策マップ」の作成だった。
 「かつて本校は『東稜には学校が3つある』と言われていたことがあったんです。学年間の壁が厚く、学年会によって指導方針が分かれていたんですね。そのため年度ごとの入試実績にもばらつきがありました。学年を超え、学校全体としての進学・学習指導方針を確立し、安定した入試実績を上げることが課題となっていたのです」
 「学力向上対策マップ」には、進路指導部による「進路指導版」と、各教科が作成した「教科・科目版」がある。「進路指導版」は、1年次から3年次までの月ごとの「進路指導上の目標・目的・留意点」「具体的な取り組みの内容」「職員間で共通理解が必要な事項」などを記載したものだ。一方、「教科・科目版」には科目ごとに「指導目標」「具体的な指導内容」「目標値(進研模試の偏差値など)」などが記されている。
 「『学力向上対策マップ』には、特に新しい取り組みは入れていません。今までやってきたことを整理しただけです。しかしこれを通して、それぞれの取り組みが3年間の指導の流れの中でどのように位置付けられているかが分かり、指導スタンスの共有化を図ることができます。その結果、現在の本校は学校全体の指導方針も一貫しており、入試実績もある程度のレベルを維持できています」

そして、同校では今
新しい課題に取り組んでいる。来年度からの「総合的な学習の時間」への対応だ。進路指導部の鈴木田光孝先生をチーフとするプロジェクトチームが、現在計画案を作成している。
 「まだ構想段階ですが、これまで実践してきた系統別進路学習に小論文学習などを加えて展開させたいと考えています。小論文学習では、例えば1年生では『環境問題』や『生命倫理問題』といったテーマを扱う予定です。それぞれのテーマについて、まずは資料で基本的な知識を習得、次にグループでの集材とディスカッション・ディベート学習を通じて、社会問題に対する自分の考え方を深めます。そして最後に小論文執筆に取り組み、自分の意見を文章にまとめる能力を身に付けるわけです。系統別進路学習では、自分の将来に対する興味・関心を発見することができます。この二つを有機的に結び付け、広く社会に目を向けながら、その中で自己の生き方、在り方が考えられる生徒を育てられるのではないかと思っているのです」(鈴木田先生)
 さらに2年生の修学旅行では、茨城県つくば市の研究施設を訪問する研修型修学旅行を構想している。修学旅行についても「総合学習」にリンクした取り組みにしたいと考えている。鈴木田先生は「かなり大がかりな計画なので、合意を得ていくには時間がかかるでしょうね」と予想する。しかし、光岡先生の取り組みが時間をかけて先生方の理解を得ていったように、「総合学習」を学校に根付かせていきたいと語る。東稜高校の学校変革は、まだ続いている。

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生活習慣を守ることは、学習態度の向上に直結するとの考えから、同校では、挨拶や服装などの基本的なマナーの厳守も徹底させている。



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