10期生が入学した
4月から5月にかけて、光岡先生は長い間温めていた取り組み案を、学年会で次々と提案した。系統別進路学習、「学習の軌跡」、テーマ別セミナーハウス宿泊研修、情報ウォッチング、小論文コンテスト……。その数は実際に実施されたものだけで19件にのぼった。
系統別進路学習は、進路意識の醸成をねらいとしたものだ。月に1コマの進路学習の時間に、生徒を興味・関心に応じて文学系、教育系、法学系など13系統のグループに分け、1年次は自己理解や職業研究、2年次は学部・学科研究や志望校研究、そして3年次は受験校の決定や小論文研究を行った。
学習習慣を定着させるために導入したのは、「学習の軌跡」だ。生徒たちは、カレンダー形式の学習記録表である「学習の軌跡」を手渡され、3時間以上家庭学習をした日は青、2時間以上3時間未満の日は黄、1時間以上2時間未満の日は赤でそれぞれの日にちのマスを塗っていく。1週間の最後には「反省・コメント」の欄が設けられており、1週間の学習態度を振り返り感想を書く。「学習の軌跡」には担任も目を通し、コメントを記す。生徒は自分の学習態度を意識化でき、教師は生徒の家庭学習の様子を視覚的に把握できるわけだ。
テーマ別セミナーハウス宿泊研修は、校内のセミナーハウスを使って行われた。「学習の軌跡」が生徒の学習に対する習慣を身に付けさせるためのものなら、こちらは学習への意欲を養うことをねらいとしたものだ。各教科ごとに「1年生でも解けるセンター試験」「数学が苦手な人のための定期テスト対策」「星を観察しよう」など様々なテーマのセミナーを用意し、受講生を募集する。生徒の個別のニーズに対応し、さらに教師が泊まり込みで指導することもあり、生徒たちにも大好評だった。
そして、これらの取り組みと同様に力を注いだのが生活面での指導だ。服装ルールの厳守、挨拶や掃除の励行、時間厳守などをしつこいくらいに徹底した。生活習慣を守ることは学習態度の向上に直結するとの考えからである。また、社会人としての基本的なマナーを生徒たちに習得させたかったからだ。
光岡先生が提案した数々の新しい試みに対して、一番戸惑ったのは学年会の教師たちだった。何しろ光岡先生にとっては長い間温めてきた企画でも、他の教師には初めて耳にするものばかりだったのだ。
「イメージを共有化するには、時間をかけるしかないと思います。まず私が提案して、先生方に考えていただく。次の会議で先生方の意見を聞き、それを取り込む形で具体案を形づくっていく。発案したのは4月から5月にかけてでしたが、実際に形になって動き出したのは6月末から7月にかけてでした」
学年主任として光岡先生が大切にしたのが、学年全体で生徒を育てる体制をつくることだったという。例えば学年会が発足したばかりの頃、光岡先生が他の教師に提案したのは次のようなことだった。
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クラス運営上の諸問題はできるだけオープンにする(担任の指導不足ではない。ましてや恥ではない。みんなで解決する)
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隣人から盗み、隣人に盗ませる(ノウハウやアイディアは共有する)
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他のクラスも自分のクラス同様に指導する
「クラス運営には、担任ばかりでなく副担任にも参画してもらいました。例えば面談は、担任と副担任が分担して行うんです。生徒の中には、副担任の先生の方が話しやすいという子もいますからね。そういった工夫の結果、担任、副担任すべての先生が、それぞれの役割を担う雰囲気ができ上がりました。数々の取り組みを動かすことができたのも、学年会が一枚岩になっていたからだと思います」
光岡先生の期待通り、10期生の生徒たちの学習意欲、進路意識は時間を経るごとに高まり、学習習慣が定着していった。その成果は00年春、生徒たちが卒業する際に入試実績として表れた。例年の2倍近い国公立大合格者を記録したのだ。
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