VIEW21 2002.9  指導変革の軌跡 熊本県立東稜高校

 東稜高校では、毎朝7時半から課外授業を行っている。と言っても以前は必ずしも開始時間が守られていたわけではなく、生徒たちは7時半前後に教室に入り、何となく授業が始まっていた。しかし1997年度の1年生から、教師たちの厳しい指導により5分前ルールが適用された。生徒は7時25分より前に教室に入り、準備を済ませて授業開始を待たなくてはいけなくなったのだ。他の学年では、比較的指導が緩やかだったにもかかわらずである。当然1年生たちは、不満そうな顔で教師のところに抗議にやってきた。
 「先生、どうして私たちだけ遅刻厳禁なんですか。2年生や3年生は許されているじゃないですか」
 当時1年生の学年主任だった光岡和隆先生は、内心「困ったな」と思いながら、生徒たちに次のような説明をしていた。
 「上級生は上級生、1年生は1年生。きみたちにはそれだけのものを期待しているということだよ。きみたちなら私たちの要求に応えていくだけの力があるからね」
 光岡先生は、「期待」という言葉を生徒向けの言い訳として使っていたわけではなかった。この学年がうまくいけば学校全体が変わるはずだという強い思いが、光岡先生にはあったのだ。
 先生が学年にかかわったのは2年振りのことだった。「進連協」という熊本県の教育組織の事務を担当していたこともあり、しばらくクラス運営や学年運営から離れていた。その間先生は、「今度自分が学年運営を担ったら」と様々な構想を練っていたという。
 東稜高校は88年に創設されたばかりの高校である。1期生以降、毎年50名前後の国公立大合格者を送り出していた。だが、進学校を標榜する同校としては、必ずしも満足のいく数値とは言えなかった。そこで先生は、合格実績を高い位置で安定させるための効果的な取り組みを同校に導入したいと考えていた。その試金石となったのが97年度入学生、すなわち10期生(同校では各学年に対して○期生という呼び方をすることが多い)だった。
 「もちろん合格実績を上げることだけを目標にしたわけではありません。知識だけをインプットして卒業させても、社会に貢献できる人材にはなりませんからね。ペーパーテストで測定可能な学力の他に、思考力や判断力、意欲や態度、そして規範意識などの目に見えにくい力も鍛え上げたいと考えていました。時間のことで生徒たちに厳しく言ったのも、そういう思いがあったからです」

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カレンダー形式の学習記録表である「学習の軌跡」には、生徒の毎日の自宅学習時間が記されている。これにより、教師は生徒の自宅学習状況を把握することができる。



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