生徒の実態を踏まえたシラバス作成は今後の必須課題
一方、教科特性に応じた評価規準を考えることに加え、学校全体の教育方針をも踏まえながら各教科の評価規準を考えることも忘れてはならない。菅主任が作成した英語のシラバス(資料6)からは、そのような強いメッセージを読み取ることができる。
「シラバスに普遍的なものなどありません。あくまでも学校の実態を踏まえたものを作成することが重要です。例えば、英語のシラバスには、あえて進路多様校のケースを想定し、『短時間で辞書を引くことができる』『効果的学習方法を身につけている』など、中学校の学習内容の定着度を確認したり、基本的な学習習慣の定着度を確認するような評価規準を設けています。学習指導要領の到達目標はもちろん踏まえなければなりませんが、現実の指導実態に応じて柔軟な評価規準を考えることは、本気でシラバスを運用する上では不可欠な課題です。学校現場においては、シラバスの作成以前に、まずは育てたい生徒像の確立や、生徒の実態把握をしっかり行う必要があるでしょう」(菅主任)
「学校を見る目が益々シビアになる中で、書類仕事でシラバスを作っていては意味がない」と菅主任は強調する。というのも、学校の実態を踏まえずに作成されたシラバスが機能せず、進学実績が低迷してしまったような場合、生徒や保護者に対して説明責任が果たせないからだ。
「今後、学校の自己評価が本格化する中で、シラバスが重要な学校評価の指標と見なされるようになることは間違いありません。シラバス作成の本格化は、学校間の競争意識を触発することにもつながっていくでしょう」(菅主任)
将来的には全科目についてシラバス提出を望む
大阪府教育センターでは「将来的には全科目のシラバス提出を望む」(菅主任)という方針で、高校現場におけるシラバスの導入を推進する考えだ。「教育委員会が先行するスタイルに違和感を感じる学校も多いのでは?」という問いに対し、菅主任は「シラバスが実際に指導に生かされるようになれば、自然と作らざるを得なくなるでしょう」と言う。
「シラバスは教師の力量を試すためにあるのではありません。生徒のため、そして教師の指導力を伸ばすために作成するものです。実際、私たちも今回のシラバス作成作業を通して学ぶことが多々ありました。単元を扱う順序を一から考え直したり、他教科との関連を考えたりすることの重要性は、シラバス作成を行わなければなかなか見えてこないでしょう」
シラバス作成を、指導改革の明文化のために行うケースも多くあるだろう。だが、シラバスを作成する作業そのものが、指導改革を促す仕掛けにもなり得るのだ。その意味で、シラバスの作成がもたらすのは狭義の授業改革だけではない。それは、学校としての指導の在り方全体を見直す契機にもなり得るものなのだ。
まとめ
今回の取材を通して編集部が感じたのは、シラバス作成が学校全体の教育の在り方を変えるきっかけにもなり得るという可能性であった。
例えば、修猷館高校では教科指導の改善サイクルができ上がると同時に、生徒に積極的に学びに向かう姿勢が醸成され始めた。また、筑波大附属駒場中・高校の事例からは、シラバス作成を通した情報の開示が、保護者と学校との連携をより緊密なものとする可能性が垣間見られた。
そして、大阪府の事例を見るまでもなく、シラバス作成が火急の課題として高校現場に認識されていくであろうことは明白である。大阪府以外では今のところ広島県や埼玉県などが、シラバス作成の義務化を打ち出しており、このような動きは全国的に拡大していくと思われる。
学校独自の問題意識を踏まえ、本当に生徒・教師・保護者に役立つシラバスを作成できるかどうかは、まさに目前に迫った課題であろう。
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