VIEW21 2002.10  指導変革の軌跡 富山県立富山中部高校

生徒の気質そのものを
立て直すという同校のスタンスは、全校での読書運動の実施からも窺われる。全国的に、1か月に1冊も本を読まない「無読者」の増加が問題視されているが、同校ではこの事実を、生徒たちの学習意欲の減退と密接な関係にある問題として捉えている。
 「本校の『読書の時間』は、月2回、HRの時間枠を利用して行われています。教養を深めたり、情操を養ったりするのに役立つ本を課題図書として、2か月ごとに1冊読み切らせます。読書をすることによって養われる感受性や、知識欲といったものは、豊かな人間性の形成を図る上で欠かせないものです。また、広義の学習意欲の根幹をなすものとして、必ずや教科学習への意欲や、ものを考える姿勢の育成にもつながるはずです。今後は課題研究や小論文学習への発展も視野に入れながら、より効果的な指導の在り方を考えたいと思います」(桐谷先生)
 授業時間の減少が危惧される中、あえてこのような時間を設けたのは、あくまでも全人教育を実践する伝統校として、自校の改革を捉えた結果なのだ。

同校の改革について
語る上で忘れてはならない点がもう一つある。それは、改革の進行状況や問題点を、逐一保護者にも伝えてきたことだ。浅田茂校長はその意義を次のように強調する。
 「学校の在り方を大きく見直すような改革は、保護者の理解と協力なくしては成立しません。そして、そのために大切なのは、我々教師の生の声を保護者に直接ぶつけてみることです。学校と保護者の連携は、子どもたちを育てる上での悩みを共有することから生まれるのですから」
 実際に、同校では改革のスタートを機に、従来は会員のリレーエッセイなどが中心だったPTA通信を大幅にリニューアルした。発信する内容を抜本的に見直し、クラスの問題点や、改革を進めていく上での悩みなどを教師が率直に語ることにしたのだ。そして、それをきっかけに教師と保護者の信頼関係が一層深まり、今では執筆してほしい教師の名前やテーマまで、保護者からリクエストが寄せられるようになったという。
 「こちらからボールを投げなければ、保護者から学校に対する信頼が寄せられることはありません。共に子どもたちを育てるという意識を共有できるようにすることが、改革に対する理解を生むのです」(浅田校長)
 また、保護者との連携を密なものとするため、00年度より同校では、高校としては珍しく、担任が生徒の家を一軒一軒回る家庭訪問を実施している。
 「本校の改革は、生徒の生活習慣や学習習慣をしっかり確立させることを主眼に置いていますが、この目標は家庭の協力なくしては達成できません。学校、生徒、保護者がしっかり連携してこそ、本校が目指す改革は初めて成功させることができると言えるでしょう」(黒田教頭)
 家庭訪問の実施は着実に実を結びつつある。例えば、PTA通信の保護者の声の欄には、「家庭では知ることのできない先生と子どもの信頼関係を直に感じることができた」といった感想が数多く寄せられるようになった。
 保護者と学校が良好な関係を築くことは、現実に学校改革を進める上でも計り知れない力になる、と浅田校長は言う。
 「保護者が支持してくれているという自覚は、改革に取り組む教師の大きな支えになります。実際、02年度より本校は、土曜日に自由参加型の補習を行っていますが、保護者のバックアップを得ることでスムーズに実施することができました。マスコミなどからは批判的な意見も寄せられましたが、それでも『生徒のために正しいことをやっている』という意識が保護者と共有できていれば、改革に向かう教師の意欲は自ずと生徒に伝わってゆくはずです」(浅田校長)
 改革がスタートして3年。その成果は徐々にではあるが着実に数字として現れつつあるようだ。例えば、02年度から同校では、7限授業の実施日が週に3日となり昨年度より2日増えたにもかかわらず、3年生の家庭学習時間は3時間30分とほぼ昨年並みをキープしている。また、4月~6月にかけての学習時間の推移を見ても、各教科の学習時間の合計は週当たりで4時間程度増えている。
 伝統校としての再起をかけてスタートした同校の改革。「成果はこれから」(桐谷先生)と気を引き締めつつも、同校の教師たちはその行方について自信を深めつつあるようだ。


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