そのため、同校においては課題を極端に増やしたり、テストの回数を安易に増やすなど、生徒の自発性の減退につながりかねないような改革案は当初から検討されなかったという。むしろ、同校の教師たちが着目したのは、いつの間にか変わってしまった生徒の「気質」そのものを立て直していくこと、つまり、学力向上の前提となる学習意欲の向上や、生活習慣の立て直しを図っていくことであった。このようなアプローチを重視した背景について、教務主任を務める神田浩先生は語る。
「都市部では、私立の中高一貫校の台頭などにより、入学してくる生徒の学力そのものが変化している場合もありますが、本校の周辺ではそのような変化はありませんでした。つまり、学習量が減ったとはいえ、本校に入学してくる生徒たちは、相変わらず地域のトップクラスの生徒たちなのです。ですから、問題があるとすれば、実力がありながら学習に向かおうとしない彼らの気質そのものです。基本的な生活習慣や学習習慣を立て直し、自発的な学びの姿勢を取り戻せば、きっと学力はついてくるだろうと考えたわけです」
このような問題意識に基づいた同校の取り組みの概略を資料1に示した。高校生としての学びの習慣を早期に確立させるための「新入生合宿」や、進学意欲を高めるための「大学探訪」の実施、そして、自学自習のペースメーカーとなるシラバスの配付など、確かに生徒のモチベーションの掘り起こしや、学習習慣の確立を重視する地道な取り組みが目立つ。
「本校が育てたいのは、あくまでも自ら主体的に学ぶ生徒です。教師の役割は1から10まで指導することではなく、生徒の背中を少しだけ押してあげることだと考えています」(桐谷先生)
一方、学習の要となる授業の改革にも力が注がれた。例えば、学力格差の拡大が問題となっていた英語と数学については、習熟度別少人数授業が一部導入されるようになった。さらに、指導力の向上を目指して、教師が互いの授業を公開し、研究し合う「互見授業」や、保護者に授業を見てもらう「参観授業」なども実施された。
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