「なぜこんなにも自宅学習の時間が減ってしまったのか」
1999年の冬、県内有数の進学校である富山中部高校の教師たちは、同年9月に実施された生徒の「生活実態調査」の結果を目の前に、驚きを隠せなかった。受験を控えた3年生ですら、平日の学習時間は2、3時間。以前ならば、1年生でも、平日3、4時間、休日7、8時間の勉強が当たり前だったにもかかわらず、である。同校の黒田明教頭は、その結果に愕然としつつも、変化の原因について思い当たることがないわけではなかった。
「旧制中学以来、『生徒の自主性を最大限に尊重する』という理念に基づいてすべての教育活動を行ってきた本校においては、予・復習の方法について細かく指導したり、学期期間中に補習を行うようなことは特にしてきませんでした。むしろ、教師が過剰に手をかけすぎないようにすることで、生徒たちの自発的な学習姿勢を養ってきたのです。しかし、ここ数年、現場の教師たちから『以前と比べ、生徒から授業に向かう気迫が感じられなくなった』『授業への食いつきが悪くなったようだ』という感想が頻繁に寄せられるようになっていたのです」
黒田教頭の危惧を裏打ちするかのように、00年度進学実績も低迷した。例年、同校は200名ほどの国公立大合格者が輩出してきたのだが、この年はそれを大きく下回る177名止まり。私立大入試の結果においても、進学実績の低下は明らかだった。
「このままでは地域の進学校としての期待に応えることはできない…」
危機感を募らせた同校の教師たちは、管理職を中心とした「将来構想委員会」を組織、従来の取り組みをすべて見直す気概で改革に臨むことを決意した。
学校改革の一環として導入された読書指導。日々の学習のベースとなる教養や、知的好奇心の向上をねらいとして導入されたという。生徒たちの評判も上々だ。
改革の方向性を
考えるに当たって、同校の教師たちがまず初めに確認したことがある。それは「指導の手法はいくら変えても構わないが、地域の伝統校として全人教育を主軸に据えた教育を行う理念は不変である」という一点だ。進路指導部長を務める桐谷俊一先生の説明によれば、その一点こそが同校の改革の根幹をなしているようだ。
「『鍛錬・自治・信愛』の校訓を掲げる本校では、創立以来、地域や国の将来を担う人材を育成すべく、全人教育に力を入れてきました。学習指導においても生徒の自主性を重んじた教育を推進してきたのはそのためです。ですから、今回の改革に当たっても、その伝統だけは不変であることをまず確認し、その上で、生徒の気質変化に応じた指導改革を考えました」(桐谷先生)
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