VIEW21 2002.10  創造する 総合的な学習の時間

地域の教育力の活用こそ今後の課題

 「遠野学」がスタートして3年。スタート時の1年生は、現在3年生として「遠野学」の成果を生かしながら進路学習に励んでいる。「まだ卒業生が出たわけではないので、成果については一概には言えません」と大内先生は謙遜するが、「遠野学」で地域医療についての関心を深めたことをきっかけに、看護師になろうと決意した生徒が出るなど、成果の芽は既に出始めているようだ。そんな3年間を振り返って大内先生が改めて実感したのは、地域の教育力を学校の中に取り入れることの大切さだと言う。
 「『遠野学』がきちんと成り立つためには、地域の人たちの協力が欠かせません。不慣れな講演を快く引き受けてくれた農家の人、あるいは、『これは企業秘密だから』と言いつつも、郷土菓子の作り方や歴史について丁寧に教えてくれた菓子店の店主。こうした人々の協力なくしては、『遠野学』が軌道に乗ることはなかったでしょう。もちろん、生徒の応対がまずくて時には注意されることもありますが、こうしたやりとりを重ねることで、地域の人たちと学校が協力して、共に生徒を育てていく意識が生まれることこそ大切なのではないでしょうか」(大内先生)
 上澤教頭も口を揃える。
 「学校評議員制度など、学校と地域の連携を取り戻そうとする取り組みが始まっています。しかし、せっかくのこうした制度が学校を監視するための組織になってしまっては元も子もありません。『総合学習』の実施を機に、小中学校も含め、地域の人たちと学校が連携した教育の在り方を摸索していければと思っています」
 上澤教頭は「『総合学習』を行う上で地域との連携が必要なのは、本校のように地域研究を行う場合だけにとどまらない」と強調する。確かに、「総合学習」の実施を機に、進路学習や職業体験学習で地域に生徒を送り出す高校は今まで以上に増えていくだろう。その意味で、「地域を教材として活用する」という発想に立ち、学校と地域の連携を摸索する必要性が増すことは間違いない。この点は遠野高校にとどまらず、他の多くの学校にとっても今後現実的な課題となっていくだろう。

資料1 『遠野学の手引き』『遠野学・受講の手引き』
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『遠野学の手引き』をはじめとする各種冊子は、生徒の学習のみならず、教師の指導にも生かされている。上のページではレポートの作成方法が詳細に示されている。

資料2 『遠野学推進ニュース』
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「遠野学」の取り組み内容を、学年を越えて把握するために発行された「遠野学推進ニュース」。現在では保護者や地域の人々への情報発信も重要な役割となっている。

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