生徒の多様な個性を生かす手法を摸索する
このような段階を踏んで2年次からいよいよ課題研究がスタートする。先の6つのキーワードに従って生徒たちはクラスの枠を越えて6つの班に分かれ、それぞれの班内でさらに4~5人程度のグループに分かれる。研究テーマの設定はこのグループ単位で行われ、以後の調べ学習もこのグループをベースに行われる。
「グループ学習を取り入れた背景には、クラスが解体された状況の中で教師の指導負担を軽減するねらいがもちろんあります。しかし、それ以上に重視したのは、多様な資質を持った生徒が共同作業をすることで得られる教育効果でした。例えば、調べ学習を進める過程で地域の人にインタビューをする機会も出てきますが、そんな時に一人でもインタビューの得意な生徒がいれば、それは周りの生徒にとっても大きな刺激になるはずです」(大内先生)
こうしたスタイルでの学習は、生徒たちにも支持されているようだ。同校が生徒に対して実施したアンケートによれば、「協力して一つのことを成し遂げる大切さが分かった」「自分がいないときでも仲間がカバーしてくれた」など、グループ学習に肯定的な評価が数多く寄せられている。また、グループ学習を取り入れることにより、課題研究のレベル自体が高まっている面も無視できない。例えば、「姥捨て」というローカルな題材から出発しながら、最終的には現在の高齢者福祉の問題にまで研究が深まったグループもあったが、このような問題意識の掘り下げや研究の視野の拡大は、グループ学習ならではのことだと言えるだろう。
「アンケートによれば、実に86%余りの生徒がグループ学習のスタイルを支持しています。多様な個性が集まることは、生徒の人間的成長にとっても大きな効果があると言えるでしょう」(大内先生)
課題研究の成果は、11月の全校発表会を目標にまとめられる。ここでも、まとめ作業が得意な生徒、情報の取捨選択が得意な生徒、あるいはパソコンの操作が得意な生徒など、それぞれの生徒が互いの個性を生かしながら共同作業を進める姿が見られるという。一般的に生徒の資質が多様になればなるほど指導は難しくなると言われるが、同校では生徒の多様さを生かすことで、より高い学習効果を得る方法が模索されている。
指導の質を確保するために手引きなどの冊子を活用
一方、指導体制に目を向けてみると、教師間の指導のばらつきを最小限に抑えるための各種冊子が充実していることが注目される。例えば、同校では詳細な「遠野学の手引き」を作成して生徒に配付しているが、この冊子は生徒が活用するのみならず、同時に教師が指導を行う際にも活用できるよう工夫されている。
「手引きの中には、年間の学習計画の他、課題設定の方法や課題研究の基本的な進め方などをマニュアル化して提示しています。これにより生徒は自分が学んでいることの意義や目的を知りながら学習を進められますし、教師の側にも指導のばらつきを最小限に抑えることができるメリットがあります」(大内先生)
学校オリジナルの冊子はその他にもあり、それぞれが指導の目線合わせに活用されている。例えば1年生に配付される「遠野学・受講日誌」はそのままポートフォリオ評価の素材となるし、2年生に配付される「遠野学・課題研究の手引き」には、生徒が校外研修を行う際に必要な各種申請書類や課題提出用のフォーマットなどが綴じ込まれている。指導に不慣れな教師でもこれらのマニュアルを活用することで、一定レベルの指導を行うことができるわけだ。
また、学年間の意思統一を容易にするため、同校においては「遠野学推進ニュース」が頻繁に発行されている。
「他学年の動きを知ることで『学校全体の取り組みなんだ』という意識を教師間で共有できます。活動の性質上、学年進行のスタイルを採ることが多いですから、その点をフォローできるような仕掛けが何らかの形で必要でした」(大内先生)
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