VIEW21 2002.10  特集 進む「理科離れ」と理科教育の展望

( まとめ )

高校の理科教育に求められるものとは

 授業時間数の壁や大学入試との兼ね合いなど、高校における理科教育にとって、難しい課題は依然多い。しかし、全国の高校現場で、生徒の理科への興味・関心を取り戻そうとする様々な取り組みが開始されている。そこで、今回紹介した経済同友会の提言や、岡山一宮高校の事例も参考にしつつ、高校における理科教育に求められているであろう、いくつかの視点を整理してみたい。

○自然体験や実験・観察を重視し、理科への興味・関心を育む

 創造性を養うためには、自然科学の基本的な原理や法則を理解し、それを「活用」する教育が求められる。実験・観察などの頻度と理科が好きという生徒の割合の相関はデータでも明らかになっており(図3)、生徒に「理科が面白い」と思わせるためには、こうした「体験」はどうしても欠かせない。授業時間の少なさに悩みながらも、実験・観察を豊富に授業に取り入れて成果を上げている高校は少なくない。

○大学・研究機関などとの連携で最先端の学問・技術に触れさせる

 大学教員による出前講義や講演会、研究施設見学など、大学や研究機関と連携し、最先端の学問や技術に触れる機会をできる限り生徒に提供しようと取り組んでいる高校が増えている。生徒にとって、最先端の学問、技術に触れることは、科学技術への興味・関心の高まりや、将来の進路決定に大きく影響する。

○生活や将来の職業と理科とのかかわりを考えさせる

 文系・理系にかかわらず、理科と生活とのかかわりや将来の職業において、理科的な知識・素養がどのように必要となるかを具体的に意識させ、自分の生活や、将来の職業との関係で学ぶ目的が明確に分かるようにしたい。具体的な試みとして、小論文の課題やディベートのテーマ設定の工夫などを行っている高校もある。

○学習目標を明確にすることで、主体的な学習サイクルを確立させる

 「何のために」学ぶのかという学習の目的意識を生徒に持たせることが大切である。そこで、例えば「課題研究」など生徒が自ら課題を設定し、自主的に研究を深めていくような学習は非常に有効である。既に「総合学習」の時間や、「学校設定科目」を活用して、そのような取り組みを始めている高校も少なくない。また、教科学習においては、「シラバス」の提示により、生徒に「学習目標」、「学習内容」等を明示することで、先を見通した主体的な学習態度を身に付けさせようという試みも広がりつつある。

○教師自身が科学技術への関心を持ち続け、授業を創意工夫する

 科学技術の進歩が目覚しい今日では、生徒が興味を持つ分野について学習や研究を進めると、それが教師の知識を越えてしまうケースもある。岡山一宮高校の例でも、先生方は「生徒と一緒に教師も勉強することが大切」と語っていた。理科を担当する教師自身が、科学上の新発見や技術の進歩に常に関心を寄せ、授業に最新の話題を導入したり、教材を工夫したりすることで、生徒の知的好奇心を刺激することができるのではないだろうか。

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