VIEW21 2002.10  特集 進む「理科離れ」と理科教育の展望

スーパーサイエンスハイスクールとして、
理科 教育のさらなる充実を

 岡山一宮高校理数科では02年度より、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受け、さらなる理科教育の充実へと踏み出している。SSHとしての取り組みを本格的にスタートさせるのは次年度からだが、その構想を理数科主任の進藤明彦先生はこう語る。
 「SSHに手を挙げたのは、私たちが理数科を立ち上げたときに考えていた理念と、SSHが目指しているものが合致したからです。指定を受けることで、今までの取り組みをさらに発展させられるのではと考えました」
 同校の取り組みの柱は、あくまでも「課題研究」である。次年度からは、「課題研究」をさらに効果的なものにするために、学校設定科目として1年次に「スーパーサイエンスラボ講座」、2年次に「科学論文基礎」、3年次に「課題研究Ⅱ」を導入する予定だ。また、これらのカリキュラムの研究開発のために、大学教授や企業の研究者、中学校の教師などを委員とし、同校の取り組みについて外部から指導・助言をしてもらう「運営指導委員会」を設置した。
 各学校設定科目の内容だが、1年次の「スーパーサイエンスラボ講座」では、「課題研究」で実験を行う際に必要となる実験器具の使い方等を習得する。メスシリンダーの目盛りの読み方といった基本的なことはもちろん、例えばバイオ関連なら無菌操作の方法など高度な実験技能についても習得していく。
 2年次の「科学論文基礎」は、科学論文の読解・作成能力を高めることを目的とした科目だ。国語の教師にも協力してもらい、基本的な論文の書き方を習得する。また学問の最先端の世界では、英語で書いた研究論文のみが正式に認められるため、英語と理科の教師のチームティーチングにより、英語論文の読み書きもマスターする。
 さらに地歴の教師による科学史の授業も予定されている。国語能力や外国語能力、科学の歴史に対する知識など、今後の研究者・技術者に必要とされる総合力を身に付けるための科目だと言える。
 また、研究意欲が旺盛で上位層の生徒については、岡山大理学部と提携し、大学の講義を聴講し、単位認定する計画も進んでいる。その他、学会などへの参加も積極的に進めていく予定だ。
 「さらに『一宮クリエートスタジオ』と呼ばれる準備室の発展型のような教室もつくろうと計画しています。これは、パソコンやデジタル顕微鏡、教育用ロボットなどの実験設備を設置し、科学に関心を持った生徒が、興味のあるテーマについて自由に研究を行えるようなスペースです。このような生徒が主体的に学べる環境を、充実させていきたいと思っています。ただ一方で、科学的思考力を養うばかりでなく、大学進学に対応できる学力を身に付けることも重要だと認識しています。そこで、国語や英語などの科目についても、普通科とほぼ同じ時間数を確保する予定です」(進藤先生)
 進藤先生は、同校の新しい取り組みが、進路実績にどう影響するかについては「まだ分からない」と言う。「しかし、少なくともペーパー学力重視の指導では潰れてしまうかもしれない生徒を、伸ばしていく自信はあります」
 生徒が自分自身で興味のあるテーマを見つけ、主体的に研究を深められるような環境づくりを進める岡山一宮高校。同校の実践は、これからの理科教育の一つの可能性を示している。

SSHオープンスクール開催

 8月24日、岡山一宮高校では、SSHに指定されてから初めて、理数科のオープンスクールを実施した。近隣の中学生が集まったこのイベントの柱は、在校生による「課題研究」発表と、化学、物理、生物、地学の体験授業だ。「超伝導」をテーマにした「課題研究」では、「難しそう」と言いながらも真剣に先輩の発表を聞く中学生たち。「結晶をつくる」(左写真)「光通信をしよう」など実験を主とする体験授業では、実験が成功するとそこかしこから「おおーっ」と驚きの声が上がった。
 「先輩の研究発表や実験を通して、理科の面白さや実験で何かを発見したときの感動を味わってもらいたい」(中山先生)という、同校のオープンスクールの目的は十分達成されたようだ。

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