VIEW21 2002.10  特集 進む「理科離れ」と理科教育の展望

生徒が興味あるテーマを
自ら深め、主体的な研究活動ができる環境づくり

 また、同校でユニークなのは、本来なら教師が授業の準備に使うはずの物理・化学・生物・地学の各準備室を、生徒たちにも開放しているという点だ。「課題研究」に取り組んでいる生徒たちは、授業時間だけでなく昼休みや放課後、長期休暇中でも、自由に準備室に入ることができるのである。準備室にある実験器具を使ってテーマに沿った実験を行い、仲間たちで議論し、教師に質問する。興味を持ったことや疑問に感じたことをとことん突き詰められる環境を、生徒たちに与えているわけだ。ちょうど理系の大学の研究室に近い雰囲気を、理科準備室ではつくり出している。
 「こうした環境づくりや指導上の工夫を行うことで、『課題研究』をスムーズに行うことができるのです」(中山先生)
 実際、「課題研究」に本格的に取り組み始めるようになると、生徒は、教師が後押ししなくてもどんどん自分たちで研究テーマを掘り下げていくという。週2時間の「課題研究」の時間だけでは十分な研究ができないと判断した生徒は、放課後や昼休み、それに夏休みにも学校に出て、試行錯誤を繰り返しながら実験に没頭する。
 「研究の成果はすぐに出てくるものではなく、『仮説設定→実験→検証』の繰り返しです。失敗してはまた新しい仮説を立て、地道に実験を続ける……。この作業を通して、研究者に必要な『粘り強く物事に取り組む姿勢』も育むことができるのです」(中山先生)
 生徒は、『仮説設定→実験→検証』を続ける中で、多くの資料に当たったり、様々な人々の協力を得ながら新しい可能性を探っていく。例えば、人工発声装置の制作に挑んだグループは、ちょうど実験が行き詰まっていたとき、香川大で同じ研究を行っている教授がいることを、インターネット上で発見した。生徒たちは早速研究室を訪れ、教授に話を聞き、研究室を見学させてもらった。その結果、実験がうまくいかなかったのは、咽頭の材質が原因だったことが分かった。そこで、学校に戻ってすぐ材質をゴムチューブからシリコンに変更し、厚みや柔らかさを変えたところ、少しずつ人間の声に近い音を出せるようになった。
 「研究が進むごとに、レベルがどんどん高くなってくるので、教師でもすぐには答えられないような課題がたくさん出てきます。そこで、生徒には調べ方や情報収集の方法のみを教え、教師も一緒になって学んでいます。新しい発見をするごとに、生徒の目の輝きが違ってくるんですよ。一つひとつの課題を自分たちで調べて解決することで、さらに自信が付きますし、勉学自体に対する意欲が高まっていきます」
 生徒の意欲が高まるのは、学習面だけでなく、進路面でも同様だ。理数科の生徒たちは、遠く東北大や筑波大のオープンキャンパスにも足を運ぶという。そして帰ってくると、生徒同士での情報交換が始まる。
 「○○工学に関する研究は、東北大が優れている」「△△大に行ったけど、施設は岡山大の方が充実していた」
 生徒たちは大学の難易度ではなく、教育内容や研究レベル、実験施設で大学を選び始めている。

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