VIEW21 2002.10  特集 進む「理科離れ」と理科教育の展望

 こうして考え出された同校の理数科教育の柱となっているのが、2年次に2単位を割いて行われている学校設定科目「課題研究」だ。これは3~4人のグループで、自分たちの興味に基づいて理数系各科目の内容を発展させたテーマを設定し、1年間かけて研究した成果を「課題研究論文集」(資料1参照)としてまとめて、発表するというもの。研究テーマは多岐に渡り、そのレベルも非常に高度であるため、テーマによっては高校の理科室にある実験器具だけでは賄いきれない。そこで、大学や研究機関の実験設備を借りて、直接大学教授から指導を受けるようにしている。
 だが、2年生になったばかりの生徒が、いきなり自ら研究テーマを定めて主体的に研究活動を行うことは難しい。同校では、生徒がスムーズに「課題研究」へと離陸できるように、1年次に学校設定科目「自然科学入門」と「コンピュータ」(各1単位)を設けている。
 「自然科学入門」では、数学、物理、化学、生物、地学、環境の6分野をそれぞれ約2か月ずつ1年間かけて学習し、各分野のまとめとして、大学教授や研究者による講義や研究施設の見学を行う。テーマは物理なら「超伝導・極低温の世界」、地学なら「地震について」など、各大学の教授が設定する。講義までの2か月間は同校の教師が指導に当たり、生徒が大学レベルの講義を理解できるよう基本的な知識を修得させている。
 「『自然科学入門』では座学だけでなく、通常の高校の授業ではまず行わないような実験も多く取り入れています。生徒にとっては、学問の最先端に触れ、研究に携わる面白さを知るきっかけとなるわけです。様々な分野の研究に触れることで、科学技術への興味・関心を高めさせ、自分が将来どの分野を深く学びたいのかという、興味の方向性をつかませたいのです。それが『課題研究』のテーマ設定にもつながるはずと考えています」(中山先生)
 一方「コンピュータ」では、インターネットによる情報検索、ワープロソフトや表計算ソフト、プレゼンテーションなどの技能を高める指導を行っている。これらの技能は「課題研究」での情報収集や実験データの分析、研究成果をまとめて発表する際に必要となるからだ。
 また、同校では、校内の授業では接することのできない自然環境に触れるため、宿泊研修も行っている。今年度は、1年生の夏休みに岡山県の蒜山(ひるぜん)の高原を訪れ、3泊4日でフィールドワークを行った。内容は、水質調査や生物の生態調査など様々。研修の最終日には、生徒がグループに分かれて調査研究した内容をポスターにまとめ、発表した。
 「午後1時半から準備を始めて、発表が終わったのは夜の10時でした。生徒はポスターづくりに熱中していて、『もうやめなさい。食事にしなさい。お風呂に入りなさい』としつこく言わないと作業をやめない状態(笑)。生徒の意欲に圧倒されましたね」(中山先生)
 このように、1年次では、「課題研究」に向けての基礎をしっかり身に付けさせると同時に、意欲アップのために、先輩の「課題研究発表」も見学させることにしている。「課題研究」が始まって3年目の今年は、先輩が1年間かけてやってきた研究を引き継ぎ、さらに発展させていきたいと願い出たグループもあった。

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