VIEW21 2002.10   VIEW'S TOPIC

この授業で、言葉を徹底的に深めたい

 今回の授業の目的について、嘉登先生は次のように語る。
 「外来語を取り上げたのは一つのきっかけでしかありません。一つの単語の意味やその背景を掘り下げることで、生徒に言葉としっかり向き合わせたいと思っていました。この授業の中で、ある生徒が『これまで辞書は絶対的なものだと思っていたけれど、違うんですね』と言ったんですよ。辞書は、その作り手の言葉に対する考え方、姿勢が反映されたものである以上、絶対的なものではあり得ない。今回、生徒は様々な種類の辞書を使って調べたことで、言葉は人によって捉え方が違うということに気付いたと思います」
 嘉登先生は続けた。
 「私は、『言葉は知識ではなく体験だ』ということを常に心に留めています。今回は、言葉を徹底的に深めたり、また、知見のある方にお会いしたりして、生徒に刺激を与えることをねらいとしていました。この体験は生徒の個人個人の貴重な体験となり、彼らの表現能力に還元されていくと思います」
 沖森教授はこの授業に対し、「国語教育の幅を広げていく試みであり、素晴らしい」と述べる。
 「これまでの高校の国語の授業は、文学鑑賞が中心になる傾向が強かった。しかし、新学習指導要領も掲げているような、国語の『語学の側面』が今後、重要になっていくでしょう。もちろん、文学を通じて言葉に向き合うことも大事です。しかし高校の国語指導において、日本語に対してもっと幅広い捉え方をしていければ面白いと思います」
 嘉登先生は、この授業をこれまで取り組みが難しかった国語教育での体験学習、校外での学びの実践につなげていけないか、と考えている。もちろん、『総合的な学習の時間』を意識してのことである。
 「生徒たちも、校外に出て専門の知見を持つ人に出会うことで、自分が高められることを知っています。単にペーパー上の学問としてではなく、人に学ぶ、現場で学ぶという要素を取り入れることで、言葉を使うことを自身の体験とすることができるのです。これからも、辞書を使ったり、現場に出かけたりという機会を増やしていきたいと思っています」
 『レポートの書けない大学生』『美しい日本語』……。折しも、日本語が世間でも話題であるが、生徒の『未来を生き抜く力』として言語能力は、今後、益々重要になっていくであろう。神奈川総合高校では、生徒の言語体験を深める授業を試みている。このような、新しい国語教育の広がりが今後、求められていくのではないだろうか。

写真
生徒一人ひとりが、辞書づくりの成果を発表した。



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