VIEW21 2002.12  コミュニケーション新時代
 生徒との時間をより大切にするために

 高校生と大学との個別的なコミュニケーションの場が形成され、有効に機能し始めたとき、このベクトルを高校の進路指導の中にどう組み込んでいくのか。それは今後、大きな課題となってくるだろう。
 この点について、大学側はどう考えているのか。これからの大学広報の動向と併せて、早稲田大入学センターの毛利愼二課長と、同・田村義弘主任にお話を伺った。

早稲田大に聞く入学広報の現状と今後の展望

 「毎年オープンキャンパス前になると、問い合わせの電話が鳴りっ放しでした。それがここ数年、ほとんど鳴らないのです」と笑う田村氏。なぜか。今年7月に開催されたオープンキャンパスに集まった高校生にアンケートを取った結果、オープンキャンパスの開催日や内容について「大学のホームページで知った」という声が、ポスターや入学案内を差し置いてトップに躍り出たからだ(資料4参照)。早稲田大のホームページ(日本語トップページ)へのアクセス数を見ると、00年には月平均17万3千件だったものが昨年は同25万6千件、今年は同38万2千件と飛躍的に伸びている。

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 95年、学内の情報教育センター(当時)がホームページを立ち上げた頃は、テキストベースのシンプルな内容だった。当時はまだ、入試情報が掲載されているだけで良しとされていたのだ。その後、早稲田大のホームページは数回の変更を経て、今日のようにカリキュラムをはじめとした詳細な大学の中身情報まで掲載する多彩な内容となった。その背景について毛利氏は、「受験生の減少と大学進学率のアップといった環境変化の中で、多様な受験生が生まれてきたのですね。偏差値だけに依拠しない層の受験生は、大学の中身が分かる情報を欲するようになってきたのです」と指摘する。
 大学の入学広報の最終的な役割は、日本(世界)全国から優秀な学生を集めること。そのために、大学自体を知ってもらうための広報もあれば、ファン層を拡大・定着させるための広報もある。受験志望者の細かなニーズに応えるための広報活動もある。どこに広報のウエイトを置くかは大学によって異なるが、IT活用の有効性はどの大学でも認識している。
 「昔は紙のメディアで完結していた入学広報ですが、現在では活字メディアからホームページに誘導することができる。ニュース性の高い情報、生の情報をタイムリーに届けることができるメリットは大きいです」(田村氏)。従来、新聞広告や車内ポスターなどに支出していた広報予算は今、インターネットへとシフトしており、人材のシフトも進んでいる。コンテンツも日々充実させており、例えば昨年、オープンキャンパスで行われた高校生と大学との間のQ&Aはネットでも配信されたが、今年度はさらにバージョンアップし、動画を使ったバーチャル・オープンキャンパスの配信を予定している。
 しかし、早稲田大の場合、野放図にIT化を進めているわけではない。この2~3年、高校生のメールアドレスを入手して、メーリングリストを作成し、メールマガジンを自動的に届けるなどの広報手法に人気が集まっているが、「これを称してワン・ツー・ワンの手法と考えているところもあるようですが、これは紙媒体を単にメールに置き換えただけですよね。また、高校生の質問に答えるのに、手紙や電話による手法がメールにシフトしただけでもしょうがない。理想を言えば、例えば高校生が早稲田大の講義をネット上で受講し、それを単位として認めてしまう――ここまで来て、初めて本当の意味での、新しいコミュニケーションの形であると言えるのではないでしょうか」(毛利氏)
 従来の広報媒体と比較して、相対的に安価に作成することができるホームページ。そのため、一方的に大学の情報を「垂れ流す」ような傾向が出てきやすい。
 「私たちが一番留意している点は、安易な情報の洪水です。そこで、高校生の進路の様々な局面を考えたホームページづくりを心掛けています。高校の授業の中で使われるシーンも考慮していきたいですね。低学年の進路指導でホームページが使われる場面を考えると、大学横断的な情報提供が望ましいのでしょうが、一大学のホームページの中でそれを行うのは正直難しい。早稲田大では、高校との信頼関係を大切にしながら、より有益なホームページに育て上げ、成長させていきたいと考えています」(毛利氏)
 今後、高校においてはITの有効性をより活用した進路指導が望まれてくるだろう。情報収集を単に生徒の主体性に任せるだけではなく、教師と生徒が共同で情報を収集し、評価し、判断していく方向への転換が求められているのだ。また、高校が必要とする教育効果の高い情報とは何かを、出張講義や大学説明会などの場を通して、教師が大学側に積極的に伝えていくことも重要になるだろう。

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早稲田大ホームページの「ユーザー別メニュー」から「受験生のみなさん」に移動した画面。
写真 写真
早稲田大入学センター・課長
毛利愼二
Mohri Shinji
早稲田大入学センター・主任
田村義弘
Tamura Yoshihiro

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