VIEW21 2002.12  リーダー群像
 現状をどう捉え、どう行動したのか

 証券会社時代はやり手の証券マンで、運転手付きの車が与えられるほどの役職についていた村山社長。それらの地位を捨てて手に入れたのは、日の当たらない場所に置かれていた車イス部門と社員、そして大量の自転車の在庫だった。
 「旧カワムラサイクルでは、自転車製造にかかわる社員が95%以上を占めており、車イスは目立たない部署でした。自転車部門で働いていて、そのままうちに来てくれた人も『車イスは初めて』という人が多かった」
 村山社長自身、車イスに関してはまったくの素人。資金もない。数年間はいてもよいという約束だった工場からは立ち退きを迫られ、近くの農家に頼み込んでゴミ捨て場を借りて事務所にした。
 「バラックの小屋を社員みんなで建てて事務所にすることから始めました。麦藁帽子にねじりはちまき、下はジーンズという格好で、工場の周りの道路の雑草をむしったり、どぶ掃除をしたり、土をならしたり……。一からすべて自分たちの手でつくっていきました。『ボロは着ていても心は錦』のつもりだったのですが、証券会社時代の知り合いからは、相当心配されましたね」
 しかし、この作業が社員の結束を固めるきっかけになったのだ。
 「最初は、私が『こんな車イスをつくってほしい』と頼んでも、なかなか受け入れてもらえませんでした。車イスのことを何も知らないのに、口出しするなということだったんでしょう。リストラや大震災などが重なって、社員の心も後ろ向きになっていました。それが、みんなで事務所を建てたり掃除をしたりしているうちに、気持ちがまとまってきたんですね。一から自分の手でつくっていくのは、ものづくりの原点ですから」

資金がないなら知恵を出す
失敗を繰り返しながらも新しい挑戦を恐れない

 異業種から福祉業界に入ってきた村山社長にとって、車イスの知識が浅いことは社員とのコミュニケーションを図る上で負に働くこともあった。しかし、逆にユーザーの立場に立てることで、業界の常識に捕らわれないアイディアがたくさん出せるという利点もあったのである。
 「従来の車イスには、座席にも背もたれにもスポンジが入っていなかったんですね。『スポンジを入れよう』と提案すると、社員はみんな反対するんです。スポンジを入れるとその分値段を上げなければいけない。他の企業はどこもやっていないのにリスキーだと言うのです。その他、座席の幅も体型に合わせて調節できない点など、改善したいことはたくさんありました」
 しかし、他の社員はある程度需要があるならばわざわざリスクを背負ってまで変える必要はないと考えていた。そのため、改善策を巡って平行線をたどる日々が何日も続いた。
 「何度も何度も頼み込み、スポンジ入りの車イスが出来上がったのは、随分経ってからです。でもユーザーにとっては、乗り心地がよい方が喜ばれますから、割と速いペースで受け入れられていきました。自分たちで工夫したモノが売れると、社員にとっても自信になり、やる気にもつながっていきますよね。最初は頑なだった社員とも徐々に打ち解けられるようになりました。うちは、元々自転車屋で、サンプルをつくる技術はありましたから、みんなでアイディアを出し合って徐々に商品開発を活発にしていったのです」
 資金がない中から知恵を出すことでヒット商品も生まれた。これまで、車イスのパイプは鉄が主流だったが、なにしろ鉄を買う資金がない。そこで、マウンテンバイクの部品として残っていたアルミを使ってフレームをつくってみたのだ。これが結果的に軽くて強い車イスの完成へとつながり、ユーザーの心を捕らえた。さらに、村山社長は流通システムにも目を付けた。パソコンで設計・見積り・製造まですべての工程を管理できるようにし、2週間ほどでオーダーメイド車イスを納品できるようにした。販売店が在庫を抱えなくてもよいように即日出荷体制も整えた。さらに、レンタル店を中心に商品を卸している同社では、アフターサービスやメンテナンスに力を注いだ。戻ってきた製品を洗浄・修理して、レンタル店に戻すこの制度は「レンタルサポートシステム」と呼ばれ、01年度にはニュービジネス大賞を受賞。従来の福祉業界の慣習を次々と変えることで、着実に業績を伸ばしている。
 「会社を引き継ぐとき、証券マン時代にお世話になった企業の社長から『鳥は飛ばねばならぬ、人は生きねばならぬ』という額をいただきました。安定志向ではなくどんどん新しいことにチャレンジしていく、そして、一つずつ自分が思い描いていたモノができていく喜びが、『頑張ろう』という活力につながります。チャレンジを恐れていても何も生まれないのですから」


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