VIEW21 2002.12  大学改革は高校現場の指導をどう変えるのか?

教員養成系学部の再編は初等・中等教育の再編

岩瀬 問題はそれだけではありません。このまま教員養成の意味付けが不明瞭では、日本の教育そのものが危機的な状況に陥る可能性もあります。模試の結果などを見ても、年々教員養成系学部に入学する学生のレベルがダウンしてきています。卒業しても教員になかなかなれないし、民間企業でも採用が厳しいとなれば、優秀な生徒が敬遠するのは当然でしょう。実際、本校の近隣のトップ校では、教員養成系学部に進む学生がほとんどいなくなってしまったそうです。学力がそのまま教員の質に関係するとは思いませんが、このままでは小・中学校教員の質の低下が起きないかと心配です。また、この流れがさらに加速すれば、「教師=勉強がそれほどできなかった人がなる職業」という評価さえ成立しかねません。そうなれば、教師に対する信頼感自体が失われてしまいます。教員養成系学部の再編には「初等・中等教育をどうするのか」という理念が必要だと思います。

天野 おっしゃる通り、教員養成系学部の再編問題は、経済的側面のみならず、初等・中等教育の水準をどう維持するのかという観点からも考えなければならない問題ですね。しかし、文部科学省は今のところ、大学経営の効率化の観点でしか考えていない。
 ここで重要なのは、教師という職がまさに「専門職」であるという事実です。ビジネス関連など、他の専門職については専門職大学院構想が出ているのに、教職についてはそうした議論が出ていません。例えば、現在最も高い教員資格として専修免許の制度がありますが、教職経験を積めば大学院に進まなくても取得できてしまいます。教員養成系学部の再編問題を本気で考えるなら、本当はこうした観点の議論も不可欠なはずです。
 私自身は、教員養成は大学院レベルで行い、学部で何を学んできた人でも受け入れる、という選択肢があってしかるべきだと思います。逆にそのくらいでなければどうにもならないところまでこの問題は来ていると思います。ですから、この問題は大学改革全体と絡めて考えないと隘路に入ってしまうでしょう。

岩瀬 愛知教育大の場合、岐阜大、三重大の教育学部と統合して「東海教育大学」を設立するという話を聞いたり、一方で名古屋大と統合するという話が出たり、実際のところはよく分かりません。しかし、いずれにしても教員養成系学部はそれぞれの県の教育行政と深く関わっています。そう簡単に教員養成系学部の統合が進むとは思えません。また、統合が成立したとしても、問題は残されたゼロ免課程がどうなるか、ということです。もしゼロ免課程廃止ということになると、その枠分だけ私立大に行く経済的基盤がない生徒がはじき出されてしまいます。教員養成系学部の再編においても、教育機会が減少する危険性はあるでしょう。

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