【体験学習~事後学習】 修学旅行での体験を文化祭で発表
現地での体験学習は、「自然」チームならマングローブの森の生態学習、「生活」チームなら現地高校生に学ぶ沖縄文化というように、事前学習との連携を十分意識したプランが設定されている。体験学習の設定に中心的な役割を果たした栗林雅幸先生によれば、事前学習との連携を考えたプランを探すのにはかなりの苦労があったようだ。
「マングローブの森の体験学習一つとっても、きちんとした説明を行えるガイドがいるか、教材としてふさわしい行き先が設定されているかなどを判断した上で、数多くの旅行社のプランを取捨選択しなければなりません。それだけに、事前の現地視察を入念に行う必要がありました」
さらに、テーマによっては旅行社に頼らず、教師が自らの手で受け入れ先を探すケースもあった。現地の高校生との交流などは、栗林先生が地道に受け入れ先の高校と交渉した結果、実現したものだ。
「事前学習のプランニングともかかわりますから、現地の体験学習コースは、実際に旅行に出掛ける1年以上前には用意しておかねばなりません。また、一度は決まりかけたコースが先方のご都合で突然キャンセルになり、事前学習を練り直さなければならなくなったこともありました」
だが、こうした苦労のかいあって、生徒たちの反応は上々だったようだ。実際、事前学習で沖縄の自然について学び、マングローブの森での実習に臨んだある生徒に話を聞いてみると、「事前学習をしていたので、現地で説明を聞いたときの理解度が高まったと思います。また、ガイドの方も私たちが事前学習をしてきたと知ると、一方的に説明をするだけではなく、『きみたちの習ったことを基に考えてごらん』と問い掛けてくれるなど、お互いがコミュニケーションを取りながら学習することができました」と、現地での充実した学習の様子を語ってくれた。生徒の声を図2に示したが、「学習機会」としての修学旅行の意義を、生徒が十分に理解して体験学習に臨んだことがうかがえる。
さらに同校では、一連の学習の最終的なゴールとして、学習成果を発表する場を文化祭に設けている。
「情報発信力を付けさせたいと考えている以上、学習の成果をまとめ、発表する場が必要です。また、発表の場はできるだけ大きい方が教育効果が高まりますから、保護者や地域の方もいらっしゃる文化祭を活用しました」(高田先生)
発表の準備は、各チームから選抜された2名ずつ、計14名を中心に行われた。また、教科「情報」を履修した生徒がパソコン操作のサポートに付くなど、生徒同士が協力し合いながら準備は進められた。発表会当日は、プレゼンテーションソフトが活用されたのはもちろん、三線や伝統舞踊「エイサー」の実演が生徒の手で行われるなど、参観者を飽きさせない工夫が随所に見られた。
「マイクの使い方といった細かな点では至らない所もありますが、これだけのものを自分たちの力でつくり上げたという経験は、生徒たちの大きな自信につながったと思います」(高田先生)
プロジェクターを使って学習の成果を発表する生徒たち。三線やエイサーの実演も交えた発表に会場からは大きな拍手がわいた。
【取り組みを終えて】 自分の意見をしっかり言える生徒 教師間連携も深まる
一連の取り組みを終えて、同校の教師たちはどのような手応えをつかんだのだろうか。前島先生がまず指摘するのが、「教師の働き掛けで生徒は変わる」という実感を、多くの教師がつかめたことだ。
「立ち上げ当初は、学習色を前面に出した修学旅行に、生徒がついてくるのか不安でした。しかし、最終的には教師が予想もしなかったほど生徒たちは前向きに取り組んでくれました。例えば、発表会のエイサーの実演では本物の沖縄の太鼓が使われましたが、その太鼓は教師が知らない所で、生徒たちが体験学習で出会った沖縄の生徒たちにお願いして送ってもらったものでした。また、踊りの細かな振り付けなどについても、逐一現地の生徒たちからアドバイスを貰っていたようです。教師が特に指導しなくても、生徒が現地での体験や交流を生かしている姿に、正直驚いています」(前島先生)
「この活動を通して、自分の意見をしっかり言える生徒が育ってきたと思います。事前・事後学習にグループワークや発表会を取り入れた効果が出てきていると感じています」(栗林先生)
一方、高田先生は、教師間の横のつながりが深まったことに意義を感じているという。
「教科内容に突っ込んだ話となると、なかなか教師同士が同じ目線で語り合うことはできません。しかし、今回の取り組みにおいては、担当教科に関係なく指導ノウハウや互いの専門知識を交換することができました。この成果は、現在進みつつあるシラバス作成や、『総合学習』の一層の体系化においても、きっとプラスの効果を与えてくれると思います」
かつては一過性の学校行事にしかすぎなかった同校の修学旅行。だが、今やそれは、学校全体の取り組みを体系化する上で、重要な役割を担ったものへと変貌しつつある。
<前ページへ
|